笑苑千金
あるお宮にけだかい神像があって、牧童がよくその下へきて牛を遊ばせていた。
ある日、牧童が神像の腕に牛をつないだ。神様の奥方がそれをごらんになって、
「そんなことをされて、あなた、なぜ黙っていらっしゃるんです。そんなことでは威厳がたもてないじゃありませんか」
「よいではないか。したいようにさせておけばよいではないか」
神様がそういうと、奥方はいよいよ腹を立てて、
「あなたはよくても、わたしが我慢なりません」
といい、家来の急脚鬼(きゆうきやくき)を呼んで、杖で牛を打たせた。牛が逃げだしたとたん、神様は腕をもぎ取られ、牛は綱の先に腕を引きずって逃げて行った。
神様の家来の判官(はんがん)がそれを見ていった。
「なるほど、家に賢(さか)しらな妻がいると夫は思わぬ災難に遇うというのは、このことをいうのだな」