戦国策(楚策)
楚王に不死の薬を献上した者がいた。取次役が受け取って奥へとどけに行くと、近侍の者が、
「それは食べられるのか」
ときいた。
「食べられます」
というと、近侍の者は王にとどけずに自分で食べてしまった。
王がそれを知って近侍の者を殺そうとすると、彼はこういった。
「わたくしが取次役にたずねましたところ、取次役は『食べられる』と申しました。わたしはそれで食べたのです。つまりわたくしには罪はなく、罪は『食べられる』といった取次役にあるわけです。それに、不死の薬を献上されたのに、それを食べた者が殺されてしまったのでは、それは不死の薬ではなかったということになります。王がもしわたくしを殺されるならば、王は罪もない者を殺し、しかも人から欺かれたことを明るみにさらすことになりましょう」