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ずばり東京30

时间: 2019-07-26    进入日语论坛
核心提示:    デラックス病院の五日間 ◎七月二十七日 午前八時半、朝日新聞社ノ永山記者来ル。赤坂ノ有名ナデラックス病院へ予《ヨ
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     デラックス病院の五日間
 
 
 ◎七月二十七日 午前八時半、朝日新聞社ノ永山記者来ル。赤坂ノ有名ナデラックス病院へ予《ヨ》ヲ缶詰ニスルタメデアル。人間ドックニ名ヲ借リテ該《ガイ》病院ヲ探訪スルノガ目的デアル。予ハ脳味噌カラ足裏ニ至ルマデ全身ドコモオカシイトコロヲ自覚シナイノダガ、編集長ガススメルノデ、止ムヲ得ズドック入リスルコトニナッタ。ツマリモルモットニナッテ入院シヨウトイウ魂胆デアル。
 或《ア》ル日ノ深夜、予ハタマタマ新宿ノ某飲ミ屋ニオイテ、スデニカナリノ日本酒ヲ聞コシ召シテイル編集長ニ出合ッタ。コノ人ハ常ニ�水五ン合、酒五ン合�トイウ標語ヲ持チ、人間ガ健康ニ且ツ愉快ニ飲ムタメニハ、酒ト水ヲ交互ニ半々ニ飲メバヨロシイト主張スル癖ガアル。スナワチ彼ハ科学的見地ヨリシテ、人間ノ知性ハ揮発性ノ気体デ出来テイルカラ頭ニバカリ上リヤスク、ソノタメ首カラ下ノ部分ニ常ニ漂流スル感性ヲ裏切リ、アンバランスヲ招ク。特ニ酒ヲ飲ムトソノ傾向ガ激シクナル。ダカラ、酒ヲ飲ミ、水ヲ飲ミ、水ヲ飲ミ酒ヲ飲ミシテオレバ知性ハ湿気ヲ帯ビテ重クナッテ首カラ下へ降リ、感性ト握手シテ、不用心ナアンバランスヲ招クコトハナイ。酔ッテヤタラニ他人ヲ罵《ノノシ》ッタリ、�タハッ、オモチロイヨ�ナドト不意ニ猥雑《ワイザツ》ナ叫ビヲアゲタリトイウヨウナコトハナク、翌朝目ザメテモ精神的宿酔デクヨクヨシナクテスムトイウノガコノ人ノ考エデアル。ツマリコノ人ハ、酔エナイ人ナノデアル。ソノ唇カラコボレ落チル言葉ト思考ハドンナ場所デモ湿気ヲ帯ビテ冷メタク静カナノデアル。
「近頃ノデラックス病院ハホスピテルトイッテ、ホテルト病院ヲ兼ネタノガアリマス。病人デモナイノニ病院へ入ルノデス。ソレヲ一ツヤッテミマセンカ?」
「ヤルッテ?……」
「ベッドニ寝コロンデイタライイノデス。ベッドに寝コロンデタダ目ト耳ヲ澄マセテイルダケデヨロシイノデス。ソノ耳ト目ニ映ッタ物事ヲ記録スルダケデイイノ。ヤル?」
「イイデショウ」
「アンタハ毎週毎週働キスギルカラ、モウ一年モブッツヅケデ仕事ヲシテキタカラ、チョットハノンビリシテモヨロシイ。ボーナスミタイナモンダ。ドウヤ。エエヤロ」
「タダ寝コロンデイルダケデイイノデスネ?」
「ソウ、ソウ」
「ヤリマショウ」
 ソコデ予ハ病院ニ連絡ヲトリ、人間ドックニ入ルトイウコトヲ伝エタ。病院ハ部屋代ガ一日八千エン、ドック代ガ五千エン、合計一日一万三千エンデスト言ッタガ、予ハ、�アハハハ、ヨロシイ、ヨロシイ、モット高イ部屋ハアリマセンカ?�ト聞イタ。親方日ノ丸ダカラビクトモセヌ。�一日一万五千エンノ部屋モアリマスガ今ハ予約デ満員デス�ト病院ハ言イヤガッタ。金ハアルトコロニハアルンダナトビックリシタリ、感心シタリスル。
 赤坂ノ病院ニ着ク。受付ハホテルニソックリデ、石炭酸ノ匂イダノ、薄暗ガリダノ、壁ノ汚点ダノ青ビョウタンノ病人ウロウロダノトイッタモノハ何モナイ。普通ノ病院ダト受付ニ入ッタダケデ病気ニカカリソウナ気ガスルモノダガココニハソンナモノハ何モナイ。壁ニハ安田靫彦ノ絵、柱ノカゲニハ高田博厚ノブロンズノヌード像ナドアリ、一見シテ、コレハ金ガカカッテルゾト思ワセラレル。
�A室�ニ入ル。ドック代込ミ一日二万エンノ�特別A室�ハ満員ナノデ入レナカッタガ、コノA室に次ノ間ノ応接室ガツイタモノダトイウ。予ノA室ニ、電気冷蔵庫、テレビ、ラジオ、浴室、洗面所、水洗便所ナドアッテ、満足スルヨリホカニドウシヨウモナイトイウ素晴シイ部屋デアル。テーブルノ脇ニスイッチガツイテイテ、�強�、�中�、�弱�、�止�トアルノハ冷房ヲ気分のママニ調節デキル装置デアル。東京ハ水不足デカラカラニナッテルガココハドウデアロウカト浴室ヘ行ッテ栓ヲヒネッテミタラ、湯モ水モドウドウ、ダアダア、ジャアジャアト走ッテ止マルトコロヲ知ラナカッタ。ナルホドアルトコロニハアルノダナ。
 涼シイ目ヲシタ医者ト看護婦ガ現レテ、予ヲベッドニ寝カシタ。ゴム管デ腕ヲ縛ッテ血圧ヲ測リ、静脈ニ太イ、恐ロシイ注射針ヲ突キ刺シテ大量ノ血ヲヌキ取ッタ。予ハ注射ガ大嫌イナノデ、イヤダ、イヤダ、コワイ、コワイト連呼シタガ、容赦ナイ。ソノウチ浴室ヘツレコマレ、御叱呼と雲古ヲヌキ取ラレタ。ツイデベッドニ寝カサレ、十二指腸液ヲ見ルノダトイッテゴム管ヲ六十センチモ呑ミコマサレタ。予ハ涙ヲ流シ、洟汁《ハナジル》ヲ垂ラシ、唾液ト黄水デ顔中ネトネトニナリ、オウオウ、ゲエゲエ、タマラン、タマラン、堪忍《カンニン》シテクレナドト叫ビツツ悶《モダ》エ苦シンダガ、医者ト看護婦ハ同情ノ言葉ヲ呟《ツブヤ》キツツモ目ハ微動モセズ涼シカッタ。涙ノ濃霧ノナカデ七転八倒シツツ予ハ奇怪ナ克己ノ衝動ヲ覚エテゴム管ヲ呑ミコンダガ、コノ経験ニヨッテハッキリト自己克服ハマゾヒズムノ一種デアルトイウコトヲ悟ッタノデアル。
 ゴム管ヲクワエタママ予ハ三階カラ一階ニ下リテレントゲン室ニツレコマレ、腹ヲ右ニ押シタリ左ニ押シタリシテゴム管ヲ十二指腸ヘツッコマレタ。病室ニモドッタラ硫酸マグネシウムトイウ苦イ、イヤナ水ヲ呑マサレテゲエゲエト嘔《ア》ゲタ。ゴム管カラ黄イロイノヤ白濁シタノヤ、サマザマナ液ガ流レダシ、看護婦ガ涼シイ目ツキデ一本一本ノ試験管ニ取ル。予ハ顔ジュウ粘液ニマミレ、ヘトヘトニ挫《クジ》カレタ。ヤッパリコレハ病院ダ。俺ハ病気ニナリソウダト思イダシタ。編集長ヲ呪イ、ソノ言葉ニウカウカ食イツイタ軽薄サヲ憎ミ、罵ッタ。
 夜、銀座へ走ッテ、大量ノ酒ヲ飲ンダ。日本酒、ウイスキー、ジンナドヲ何杯モ飲ミ、女ヲツカマエチャア、俺ハドコモ悪イトコロハナインダゾナドト、吠エタ。
 十一時ニ病院ヘモドル。
 
 
◎七月二十八日 血液型検査、血球算定ナドトイッテマタシテモ血ヲヌキ取ラレ、耳ヲ切ラレタ。糖尿病検査トイッテ御叱呼モヌキ取ラレル。心電図ヲ取ルタメトイッテ三階カラ一階マデ階段ヲ駈ケ足デ上ッタリ下リタリスル。
 夜、銀座へ走ル。
 十一時ニ病院ヘモドル。
 
 
◎七月二十九日 基礎代謝及ビ肺機能検査トイッテゴム製ノマウスピースヲ噛マサレテ深呼吸スル。レントゲンデ胸ヲ見ル。肺ヲ透視サレテ浸潤ノ跡ガアルトイワレ、ギョットナル。自覚症状ガナニモナイノニソウイワレテ、不意ニ衰弱ヲオボエタ。大丈夫、大丈夫、俺ハ強イノダゾト呟イテミルガドウニモ弱ッテ、心ガ沈ム。知恵ノ悲シミトイウモノデアル。人間知ルコトガ幸セナノカ、不幸ナノカ、ヨクワカラナクナル。予ハコノ病院ニ入ッタタメニ病人トナッタ。我イジメラレル。故ニ我病メリ。
 午後、六百六号室ニ入院中ノ有吉佐和子ガ電話ヲカケテキタ。腸ニ腫物ガデキテ手術シタトイウ。退屈デ退屈デシヨウガナイノダソウダ。ガラガラ声デ彼女ハイロイロトコノ病院ノコトヲ教エテクレル。ココハ普通ノ病院トチガッテオープン・システムトイイ、患者ハ自分ノ好キナ医者ヲツレテ入院デキルノデアルガ、彼女ノイウトコロデハ、ココニハ病人ナンテイヤシナイワヨ、今年ハ不景気ダカラ大繁昌ナノヨ、避暑ニイクト高クツクカラ金持ハココヘ逃ゲコムノ、ソンナコト貴方知ラナイノ、馬鹿ネ、トイウ。芸能人、文化人、政界ノボス、財界ノ親玉ナドガ世間ヲ避ケルタメニホテル代リニココヘ入院スル。毎年ココニ入院シテ彼女ハ原稿ヲ書クノダソウデアル。ソレニシテモ凄イ入院料ジャナイカトイッタラ、ココデオ産ヲシタラ百万エンカカッタワヨト彼女ハイッタ。旦《ダン》ツクガ破産シタノデソノ金ハ彼女ガ払ッタノダソウデアル。彼女ノ話ニハ理解ニ困ルコトガ多イ。
「アンタ、ソコデ何シテンノ」
「ゴム管呑ンデルノヤ。痛クモナイ腹探ラレテ死ニソウヤ」
「ツマンナイコトイワナイデ。ココノドックナンテオ医者サンゴッコヨ。ホカノ病院ダトモットモットヤルワヨ。教エタゲマショウカ」
 或ル病院デ或ル女ガドックニ入ッタトコロ、オ尻ノ穴カラバリウムヲ注ギコマレタ。医者ハソレカラ表返シニシタリ裏返シニシタリシテレントゲンヲ取リ、半分ダケバリウムヲ出シナサイトイウ。ソンナ器用ナ不思議ガデキルモノジャナイト抗議シタラ、トイレデイキバラズニ腰カケタラ半分出ル、イキバッタラ全部出ルト答エタソウデアル。マタ、肺機能検査ニツイテハ、背中ニ酸素ボンベヲカツギ、ソノ上カラネグリジェ着テ、三段ダケ作ッタ階段ヲ何度モ何度モ上ッタリ下リタリサセタソウデアル。医者ハ、�コノ階段ガ永遠ニアルモノト考エテヤッテクダサイ�トイウ。ソシテ、マタ、オ尻ノ穴カラ空気ヲポンプデ入レタ。腸ノ検査ノタメデアル。ソウシテ風船玉ミタイニオナカヲフクラマシテオイテ、�七分間辛抱シテクダサイ�トイウ。イワレルママニ辛抱シタガ七分経ッテモ医者ガ�ウン�トイワナイノデ、モウ世界ガ砕ケテモイイト思ッテ泣声デ、�ヤリマスワヨッ!�ト叫ンダラ医者ハ大変恐縮シ、�スミマセンスミマセン。栓ヲ抜クノヲ忘レテマシタ�ト答エタ。
 ジョナサン・スウィフトノ『ガリヴァ旅行記』ハ痛烈奔放ナ大傑作デアルガ、ソノ第三編、ガリヴァガ空飛ブ国ノ学士院ヲ訪ネル一節ニ次ノ描写ガアル。科学馬鹿ニ対スル痛罵、ラブレーノ『パンタグリュエル』ニ匹敵スル。「……ここには一人の大先生が住んでいて、なんでも彼は同一医療器具でもって、まるで正反対の治療を施し、それでこの病気を治すというので大評判だった。彼は象牙で出来た、細長い口のついた大きなフイゴをもっていた。彼によると、これを肛門から八インチばかりさしこんで空気を吸いこませると、腹はまるで乾した膀胱《ぼうこう》のようにしぼんでしまう。だからもし病気が激しくて頑強なれば、今度は逆に一杯に膨らませて口の中にさしこむのだ。そして空気を全部患者の体内に吹きこむと再び抜いて空気を入れる。むろん、その間は拇指《おやゆび》で肛門を力いっぱい押さえているのだが、こうした操作を三、四度繰り返すと、その内に猛然として空気が噴出し、同時に(ちょうどポンプに入った水のように)有毒物を一時に押し出して、そこで患者は見事治るというのである」(筆者注・中野好夫訳)
 
 
◎七月三十日 マタシテモゴム管デアル。今度ハ胃液ノ検査ダトイウ。ドウシテ一度ニヤッテシマワナイノダ。七転八倒。涙。洟水。唾。黄水。ソコヘ今日ハ青イ水ヲ薬瓶ニ一杯注ギコンダ。注ギコンデカラ三十分オキニ注射ノポンプデ吸イ出ス。胃ノ吸収能力ヲ調ベルノダトイウ。ソレガ終ッタラ、次ニバリウムヲ大カップニ一杯呑マサレル。オレンジ・ジュースノ香リガツケテアルガ、粘土ノオカユミタイナ代物デ、マズイッタラナイ。レントゲン室ノ暗ガリデ体ヲ表返シニシタリ裏返シニシタリサレタ。オカゲデ予ノ腸ガ先天的ニ腹ノナカデネジレテイテ常人ノ位置ニ納マッテナイトイウツマラヌ事実ヲ発見シテモラッタ。
 夜、医者ガキテ、明日ガ最後ノ日デアルガ、第一通用門ト第二通用門を調ベヨウトイイダシタ。前ト後ノ穴ノ工合ヲ見ヨウトイウノダ。説明ヲ聞イテ予ハ恐慌ヲキタシ、アラヌコトヲ口走ッタノデアル。
「ソコハ現在ノトコロ何ノ故障モナイシ、自信モアリマスカラ、検査ハイリマセン。第一、ソンナ場所ハ女房ト恋人以外ニ見セルベキモノデハナイジャナイデスカ。ソレニ、大体、人間ニハ未知ノ謎トイウモノヲ残シテオカナイコトニハ、ヤリキレンジャナイデスカ。モシドウシテモヤルトイウノナラ僕ハ今カラ病院ヲ出マス」
 ヨホド狼狽《ロウバイ》シテイタノデアロウカ。医者ハ予ガ口走ルノヲ魚ミタイナ目デ眺メ、憐レムガ如キ微笑ヲ浮ベテ去ッテイッタ。
 夜九時頃、銀座へ走ッタ。
 
 
◎七月三十一日 恐ロシイ注射ヲ二本。三十分オキニ御叱呼ノ検査。焼糞ニナッタノデ朝御飯ト昼御飯ヲ二膳一度ニ食ベテヤッタ。昨日ノバリウムガ第二通用門ノトコロデ固マッテ石膏ミタイニナリ、カチンカチン。苦心惨憺シテ押出シタラ、ミュンヘンデ食ッタヴァイス・ヴルスト(筆者注・白ソーセージ)ニ色モ形モソノママノ逸品ガ飛出シ、第二通用門ガ切レテ血ガ落チタ。
 午後、永山記者ガキタノデ、フランス語ノ書取リヲヤラセル。彼ハシャンソンガ好キダガ何モ知ラナイトイウノデ、マズ『パリ祭』カラ教エルコトニシタ。
 二人デ大声デ歌ヲ歌ッテイタラ看護婦ガキテ、院長ガ総合判定ヲ下ストイウ。院長室ヘイッテ、イロイロナ注意ヲ聞イタ。肺浸潤。胃炎。幽門弛緩。胆汁薄シ。肝臓弱シ。脂肪分ヲ食ベスギルナ。慢性下痢気味。ウイスキー飲ムナラストレートヨリハイボールノ方ガ望マシイトノコトデアル。
 賢クナリ、心弱ッテ、病院ヲ出ル。オ勘定ハ合計六万五千二百八十エン。永山記者ガ払ッタノデ予ノ腹ハ痛マズ、タダ第二通用門ガシクシク痛ムノヲ心配スルダケデヨカッタ。鉄筋コンクリ六階建ノ病院ハスマートデ、シックデ、外観モ内部モ高級マンションソノママデアル。各病室ニカカッテル絵ノ値段ヲ想像シタラ、一流ホテルモ顔負ケデアル。オ金サエアレバコレハ天国デアル。
 予ハ今年ノ二月ニ週刊朝日ノタメニ大森ノ労災病院ヲ訪ネタコトヲ思イダス。アソコニハソノ日、ソノ日ノ暮シニ困ル貧シイ人ビトガ難破船ニシガミツクヨウニシテ早朝カラツメカケ、廊下ニヒシメイテイルノデアル。病舎ハ馬小屋ミタイナバラックデ、寒風、雨水、ヒュウヒュウト音タテテ廊下ヲ走ッテイタ。日本経済ノ構造ニツイテ予ハミミズヨリ盲目デアルガ、コノ国ノ貧富ノ格差ニハ、ハッキリト、エゲツナイ、激烈ナモノガアルノデハナイカ。天国ト地獄ノ距離ガスサマジイノデハナイカ。アマリニ距離ガアリスギルノデハナイカ?……
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