——繁栄するオン一族
金属が電気をよく伝えるのは、それを造っている原子の中の電子の一部分が、原子を離れて自由に走ることができるからである。温度が上がると電気の伝わり方は悪くなるが、これは原子の熱振動のために電子の走るのが邪魔されるからである。
原子の振動は波となって固体の中を伝わるが、一種の粒子と考えることもできる。このときこれをフォノンと呼ぶ。温度が上がるとフォノンが沢山飛び交って、電子がこれと頻繁に衝突するようになるのだ、と考えても、温度が上がると電気が伝わりにくくなる現象を説明することができる。
固体の中を走るのは電子とフォノンだけではない。磁性体の磁性は電子が持っている微小な磁石(スピンと呼ばれる)が皆同じ向きを向くために生じるのであるが、どれか一つのスピンの向きがたまたま変わると、その変わった状態が波となって伝わってゆく。これを粒子と考えて、マグノンと呼ぶことがある。
イオン結晶では、電子自身はイオンにくっついていて走り回れないが、どれか一つの電子がエネルギーの高い状態に移ると、その状態がやはり波となって伝わる。これをエキシトンと呼ぶ。またイオンが振動すると電磁波を発生するから、イオン結晶ではフォノンが純粋に存在できず、電磁波とまざり合ってポラリトンというものになる。
このほか、電子の集団的な振動が疎密波となって伝わるプラズモンや、温度を絶対零度に近づけると電気抵抗がゼロになる超伝導体の中を走るボゴロンなど、種々の奇妙な粒子が固体の理論には登場する。これらは英語で書くと皆語尾にonがつくから、ひっくるめて「オン族」と呼ぶことができよう。
最近の固体物理学の教科書は、これらオン族のオンパレードの観がある。これは、固体の多くの性質が、オン族があるいは単独で走り回ったり、あるいはぶつかり合ったり、またある時は結びつき合ったりするために生じるのであると考えることによって説明できるからである。