——音と光のあいのこの話
音も光も波であるけれども、音は媒質の中をその密度の変化が波となって伝わるものであり、したがって真空中を伝わることはできない。それに対して、光は電場と磁場の波、すなわち電磁波であって、真空中でも伝わることができる。つまり、聴覚と視覚とがまったく質のちがった感覚であるように、この二つはまったくちがったたちのものなのである。
しかしながら、それなら音と光はいついかなる場合にもお互いに無関係にふるまうかというと、そうはいかない。
固体の中を伝わる原子の振動も、音波の一種である。イオン結晶のように、正の電荷をもつイオンと負の電荷をもつイオンとが交互に規則正しく並んでいる固体では、正のイオンと負のイオンがいつも互いに逆むきに動くような振動すなわち音の波が存在する。これを光学的音波という。
正の電荷と負の電荷が互いに逆むきに振動すると、電磁波、すなわち光の波が発生する。逆に電磁波がこのような結晶に入ると、正の電荷と負の電荷に逆むきの力が働いて、これらを逆むきに振動させようとするから、光学的音波が発生することになる。つまり光学的音波と光の波とは互いに無関係ではなくて、密接に相ともなうものなのである。このため、どちらかだけが単独に存在することができず、つねに両方がまざり合った、いわば音と光のあいのこの形でしか存在できないのである。
これは実は昔から知られていたことなのである。光学的音波という名もこの性質のゆえにつけられたものなのであるが、レーザー光という強力でしかも非常に純粋な光波が作り出せるようになってから、このあいのこが実際に観測されるようになって、改めて話題になってきたのである。
音や光のほかにも、自然界にはいろんな種類の波がある。それらが互いに混ざり合って生みだす多彩な現象を観測したり、理論的に予言したりするのは、物理学の研究の中でも、きわだって面白いものの一つとなっている。