——個性のある振動
なめらかな台の上で、オモリの両側にバネをつけて引っ張り、両端を固定する。オモリを静止位置から少しずらしてから離すと、それは一定の振動数で振動を始める。もしマサツがなければ、これは永久に続くはずである。
今同じ重さのオモリをバネで次々につないでオモリの鎖を作り、両端だけを固定する。この鎖の中では一つ一つのオモリはもはや単独に振動することはできない。鎖全体はいろいろな振動数で振動することができるが、どの振動においても、すべてのオモリが一斉に規則正しく波打ちながら振動するのであって、どれか一つのオモリだけが独立して振動することは不可能なのである。
この事情は重さのちがった二種類のオモリを交互に並べてつないだ鎖においても変わらない。この場合、軽いオモリまたは重いオモリのどちらかだけが一斉に動き、他は静止している振動は可能だが、どれか一つのオモリだけが単独に振動することはやはりできない。いわば、オモリが沢山集まって整然とした組織を作ると、一つ一つのオモリの「個性」が失われてしまうのである。
ところが、二種類のオモリを交互にではなくて多少とも不規則に並べて鎖を作ると事情はちがってくる。このとき、軽い方のオモリの重さが重い方のオモリの重さの半分以下ならば、どれか一つの軽いオモリだけがもっぱら動き、残りのオモリはほとんど静止しているような振動が再び可能になることが知られている。すなわち沢山のオモリが集まっても、その組織が完全な規則正しさから外れていると、十分に軽いオモリは依然として個性を発揮することができるのである。
バネでつながったオモリの集まりの代わりに、互いに引き合いながら結晶を造っている原子の集まりを考えても話は同じで、不規則な結晶の中にある軽い原子は、条件さえととのえば個性的に振動することができる。
人間の集まりに組織はつきものであろうが、あまりにも整然とした組織は願い下げにしたいと思うのである。