——通信手段になる?「稜線波」
同一の原子が規則正しく並んでいる理想的な結晶の中では、どれか一つまたは少数個の原子の集まりだけが振動し続け、その他の原子はほとんど動かないままでいるということは起こり得ない。すべての原子が同じ種類でまたまったく同じ環境の中にいて、互いに完全に同格であるために、少数の原子だけが「抜けがけの功名」をすることは許されない。一つが動けばそれが波となって次々に伝わり、結局全部が動きだすのである。
実在の結晶はしかし、たとえば異種の原子が不純物としてまぎれこんでいるというような不規則性を必ずもっている。こういう結晶ではすべての原子が同格ではないから、特定の原子または原子の集団がまわりとちがったふるまいをすることがあり得る。たとえば、まわりの原子よりある程度以上軽い不純物原子が一つだけはまりこんでいる場合には、この原子だけが振動を続け、あとの原子はほとんど止まったままでいることが可能になる。身軽な不純物原子が一人で踊りだしても、まわりの原子はそれにひきずられずに、どっしりと落ちついているということが起こるのである。こういう振動は、もちろん波としては伝わらない。
規則正しい結晶でも、表面にある原子は片側だけにしか他の原子がないという、内部の原子とはちがった環境にあるから、不純物原子の場合と同じように、表面の原子だけがもっぱら動き、内部の原子はほとんど動かないような振動が起こり得る。ただし表面にある原子同士は互いにまったく同格であるから、そのうちの少数のものだけが振動し続けることはできず、いったん振動が始まると、それは表面上を波として伝わってゆく。これが表面波とよばれるものである。地震のさいに震源から遠いところで観測されるレーリー波はこれの同類である。
同じ理由で、結晶の稜に沿って伝わってゆく「稜線波」も存在することが容易に想像できる。最近実験・理論の両面からそれがたしかめられ、線状に伝わるので新しい通信手段として使えるかもしれないと、話題になっている。