——無限大の温度とは?
摂氏マイナス二七三度より低い温度は存在しないことが知られている。この温度が零度になるように、目盛りを摂氏目盛りより二七三度下にずらした温度を絶対温度という。
これに対して、高い温度の方は限度がない。絶対温度零度では物体は確実に最も低いエネルギーの状態にあるが、温度が上がると、より高いエネルギーの状態にある確率が大きくなって、平均のエネルギーが増える。しまいにどのエネルギーの状態にある確率も全部等しくなったとき、絶対温度は無限大になるのである。
高いエネルギーの方が低いエネルギーよりも大きい確率をもつようになった状態は、無限大よりも更に温度が高いはずであるが、不安定であるために、自然界には存在しない。しかし近年、巧妙な手段によって、人工的にそういう状態を作り出すことができるようになった。そのときの温度を理論的に求めると、マイナスの無限大から始まって零に至る負の値をとることになる。つまり負の温度の方が正の温度よりも高く、しかもプラス無限大からマイナス無限大へ突然飛ぶということになるのである。
この不都合をなくすためには、絶対温度の逆数に負号をつけたものを新しい温度にすればよい。すると絶対温度零度はマイナス無限大となり、絶対温度がプラス無限大からマイナス無限大へ飛ぶところは零度となって、その先が正になる。しかしこうすると今度はわれわれが日常出会う温度がマイナスになってしまう。そこで絶対温度の対数を新しい温度とすると、絶対零度がマイナス無限大、絶対温度一度が零度になるから、この不便は解消するが、今度はその代わり負の絶対温度に対応する温度が虚数を含むことになる。
あちらを立てればこちらが立たず、甚だ具合が悪いようだが、要は慣れであって、理論的にはどの温度目盛りを使っても少しも差し支えはおこらない。高々、どの温度目盛りを使うのが数学的なとり扱いをするさいに一番便利かということが問題になり得るだけなのである。