——集団運動と遮蔽《しやへい》
金属の中には原子核から離れて自由に動くことのできる電子が多数存在しており、電場をかけると負の電荷をもつこれらの電子が動くために、電流が流れるのである。電子と電子との間にはクーロン力が働いている。クーロン力という力は、電子同士が遠ざかっていってもあまり急激には弱くならない力であるから、おのおのの電子の運動はそのすぐまわりの電子ばかりでなく、遠くにある電子からの影響をも強く受けて、いちじるしく制約されたものになるはずである。
しかし実際には、金属の中の電子は、すぐ近くにある電子以外の電子の影響はほとんど受けない。この理由は次のようである。電子同士は互いに反発し合うから、一個の電子があると、他の電子がそのまわりから遠ざかって、そこの電子密度を小さくしようとする傾向が生じる。金属は全体として電気的に中性であるから、電子の密度が小さくなったところは正に帯電する。電子のまわりのこの正の電荷が、電子の電荷を「遮蔽」して、他の電子に及ぼす力を小さくするのである。
もちろん正に帯電した場所ができれば、これが電子をひきよせて、電荷の分布をもとにもどそうとするが、力あまって余分の電子までひきよせてしまい、今度はそこが負に帯電してしまう。するとよその場所が正に帯電して、集まりすぎた電子を引きもどす力が働く。こうして電荷の密度の、プラズマ振動とよばれる振動が発生する。
プラズマ振動は多数の電子が一団となって行動する運動であって、いわゆる集団運動とよばれる運動様式の一つである。プラズマ振動のために、結局一つの電子のまわりが正に帯電するのと同じ効果が生じて、遮蔽がおこるのである。
言葉を変えて、遠くの電子の間に働く力は電子の集団的な運動を発生させるのに使われてしまって、個々の電子の間には、短い距離までしか届かない力だけが残るのである、といってもよいであろう。