——数学と物理の親しい関係
一様な空間の中を運動する物体を支配する法則は、空間のどこに座標軸をとっても変わらない。空間が一様なために、どの座標軸から見ても周囲の様子はまったく同じであるから。このことから、一様な空間の中を動く物体の運動量は一定に保たれるという運動量の保存則が導かれる。
地球の重力の場は地球の中心について球対称である。すなわち地球の中心を原点とした座標軸から見た重力場は、軸をどのように回転してもまったく変わらない。このことから、球対称な場の中を運動する物体に対する角運動量の保存則が導かれる。
どのような量が保存されるかは、このように、物体の置かれている場が、座標軸のどういう移動に対して不変であるかによって、すなわち場の「対称性」によってきまるのである。保存される量は人の名前のように、一旦きまってしまうと永久に変わらないから、物体の運動状態を指定する名前、あるいは分類番号として用いることができる。場の対称性がちがうと、必要な名前の種類がちがってくる。たとえば結晶の格子はそれぞれに特有な対称性をもつから、結晶中を走る電子の状態にどういう名前をつけるか、すなわち電子の状態の分類の仕方は結晶によってちがえなければならない。
結晶中の電子のふるまいは、こうして分類された状態のおのおのがどんなエネルギーをもつかによって定まる。結晶が同じ対称性をもっていて、したがって電子の状態の分類のされ方がまったく同じでも、個々の状態のエネルギーは結晶の内部構造によってちがってくるから、電子のふるまいは結晶の対称性だけからはきまらない。しかし、エネルギーを求めるのに先立って状態を合理的に分類しておくことは便利であり、また理論的に不可欠でもある。
この分類の仕事は群論という数学の理論を使って行われる。数学と物理とが密接に結びついていることの一つの典型的な例である。