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パラサイト・イブ08

时间: 2019-07-27    进入日语论坛
核心提示:       7 移植コーディネーターの織田から吉住貴嗣《たかし》へ連絡が入ったのは午後十一時半だった。大学病院でドナー
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 移植コーディネーターの織田から吉住貴嗣《たかし》へ連絡が入ったのは午後十一時半だった。大学病院でドナーが出たとの知らせであった。デスクに向かい患者のデータを見ていた吉住は、ドナーという言葉を聞いて思わず姿勢をただした。
「脳内出血で脳死した二十五歳の女性です。今日の午後に遺族と会って承諾を得てきました」
 きびきびとしたコーディネーターの声にひとつひとつ頷きながら吉住は手元のメモ帳に要点を書き付けていった。織田あずさは昨年入ったばかりの女性コーディネーターだったが、仕事は迅速で、遺族に対しても気配りがきくとの評判だった。吉住が担当した移植でも、彼女のおかげで的確な対応が取れ、それが成功につながったことが何度かある。
 吉住の勤務する市立中央病院は、この地域における腎移植の中心施設となっている。救急病院に運ばれた患者が脳死となり、遺族から献腎の申し出があると、その病院の主治医がまずこの病院に電話する。すると移植コーディネーターがその救急病院に出向き、遺族に腎移植について説明をおこなう。理解が得られたら献腎の承諾書に署名してもらうことになる。この手続きは脳死者が腎バンクに登録していてもさほど変わらない。遺族に反対されては移植などおこなうことはできないからだ。
「レシピエントの候補が決まりました。回線でデータを送ります」
 織田が電話口でいう。吉住は頷いてデスクのコンピュータのスタートアップボタンを押した。
 移植医である吉住のところへ連絡が来るということは、移植の準備がすでに半ばに入っていることを意味する。市立中央病院ではおおむね次のような手順でレシピエントを決定している。コーディネーターが遺族の承諾を取ったところで、病院はまずドナーの血液を採取し、そのABO型血液型とHLA型を臨床検査室で確認する。さらにドナーがエイズなどの感染症に罹《かか》っていないかどうかをチェックする。その結果が出ると、コーディネーターがそのデータを基にレシピエント候補の選出に入る。
 地方腎移植センターに指定されているこの市立中央病院では、これら移植希望者の様々なデータがコンピュータに入力されている。患者の氏名、生年月日、透析施設、組織適合性、輸血歴、移植歴、透析歴などだ。この地域で死体腎移植の希望登録をしている者は約六〇〇人である。この登録者リストを検索し、まずドナーの血液型と等しい者をピックアップする。そしてその中からHLA適合度の順で候補者の順位をつける。腎はひとりの提供者にふたつあるので、大抵の場合ひとりのドナーからふたりのレシピエントが選ばれることになる。そのうちひとりは、吉住の病院がコーディネートもおこなうということもあり吉住の病院が移植を担当する慣例だ。吉住の勤める病院では適合性の高い登録者をふたり呼び出し、検査をおこなう。このうち移植に適していると判断されたものひとりが、最終的に手術を受けることになっていた。もしこの地方で適当な候補者がいないようであれば、全国の腎移植システムを統括する千葉の国立佐倉病院のほうまで検索し、他の地域へ腎をシッピングすることになる。しかしよほどその場所への交通手段が充実しているところでないと、レシピエントへの腎の生着は難しい。シッピングしている時間が長くなれば腎の新鮮さが失われ弱ってくるからだ。地域中心的にレシピエントを選出するのにはそれなりの理由がある。
 吉住は受話器を肩に置きながらパソコンのキーボードを叩いた。コーディネーターから送信されてきたデータが画面に映し出される。レシピエントの候補者リストだった。組織適合性が高い者から延々と順位がつけられている。吉住は画面をスクロールしてリスト全体をざっと見渡した。
「—番の安斉麻理子さん、それに三番の岩田松蔵さん、このふたりが候補になります。うちの病院で担当することになるのが一番の安斉さんです」
 どこかで聞いたことがある、吉住は眉間《みけん》に搬《しわ》を寄せ、そしてあっと驚きの声を上げた。
 あわてて画面をスクロールアップし、リストの一番上を注視する。安斉麻理子、確かにその名が載っている。年齢十四歳、移植歴一回、移植担当病院・市立中央病院。吉住は麻理子のHLA型を見た。ドナーのものと全て一致している。ミスマッチゼロだ。
 安斉麻理子。
 間違いない。
 吉住が二年前に担当した少女だった。
 安斉は二年前に父親から生体腎移植を試み、失敗している。手術そのものは成功だったし、術後もさほど大きな拒絶反応は起こらなかった。だが、ささいなことがきっかけで腎は生着せず、摘出することになったのだった。吉住は唇を噛んだ。悔いの残るケースだった。
 HLAとはヒトリンパ球抗原の略である。ヒトの細胞の表面に露出している糖タンパク質のことだ。外部から細胞が侵入して来ると、免疫担当細胞はそのHLAを認識し、もしそれが自分のHLAと異なる場合はその細胞を異物と見なし、攻撃する。これが免疫反応である。HLAは移植する腎の細胞表面にも発現しているから、もしその抗原のタイプがレシピエントの持つ抗原と異なる場合、レシピエントの免疫担当細胞は移植腎を異物としてとらえ、攻撃をしかけるので、当然その臓器は生着しにくくなる。したがって移植をおこなうときは、なるべくレシピエントの抗原と似たHLAを持つ臓器を探してやる必要がある。ただし、HLA型はABO型血液型と異なり、非常に多岐にわたっている。A、B、C、DR、DQ、DPと六種のHLA型があり、それぞれがさらに十種以上のサプクラスに分かれているのだ。移植ではこのうち最も解析が進んでいるA、BそしてDRの適合性が検討される。これら三種の抗原は、父親と母親からそれぞれ一組ずつ遺伝されるので、結局ひとりの人間では三対の抗原、計六個の抗原タイプが調ベられることになる。しかし、ここで抗原の種類の多さが災いする。これら六個のタイプがすべて一致するドナーを見つけ出すのは極めて困難なのだ。兄弟間であっても六つとも一致するのは四人に一人、まして他人同士では数万人に一人という確率になる。そのため実際はミスマッチが一個か二個ある臓器でも移植されることが多い。ただ、その場合生着率が悪くなることは否めない。
 安斉の場合、父と娘の間での移植であり、組織適合性も高かった。成功していいはずの移植だった。
 だが失敗した。全ては吉住をはじめとする移植班が安斉麻理子の信頼を得られなかったことが原因だった。
 吉住は大きく息をつき、ディスプレイ上の安斉の名前を見つめた。そしてこめかみのあたりを押さえ、湧き上がってくる記憶を遮った。
 吉住は仕事に集中するよう自分にいいきかせ、電話の向こうのコーディネーターに話しかけた。
「安斉麻理子がミスマッチゼロか」
「ええ、ほかにはミスマッチゼロの登録者は当地域ではいませんでした。データをご覧ください」
 その通りだった。ミスマッチがひとつの者もいない。しかしミスマッチがふたつの候補が五人いた。そのうちのひとりでリストの三番目にあがっている男性が、もうひとりのレシピエント候補になっていた。五十一歳で透析歴五年、隣県の病院の管轄になる。リストの二番目にあがっている女性には連絡がつかなかったようだ。
 移植は常にレシピエントを選択する困難がつきまとう。さまざまな要因が作用するため、患者にとっては賭けのようなものになってしまう。もちろん年齢や透析歴はレシピエントとなる候補順位に考慮されるが、自分と似たHLA型のドナーがいつ現れるのかわからない。しかもひとつの死体に腎は二個しかないのだ。
 全国の死体腎移植希望者登録数は二万人を数える。だが、そのうち実際に死体腎を移植される者は年間二〇〇人にすぎない。そして透析患者は全国で十二万人。慢性腎不全の患者に対する移植の功績は、あまりにも小さい。日本は欧米諸国に比べて、透析患者に対する移植患者の比が極端に少ないことで有名だ。それは決して日本の医療技術が遅れているためではない。脳死を人の死と認めることに対する国民の不安感が、医師や患者に移植手術を躊躇させる原因になっているのだ。患者は来るあてのない腎臓を夢見ながら、精神的にも金銭的にも楽とはいえない透析と共に長い人生を過ごすのだ。そんな現在、幸運にもレシピエントになれた者はうまくいけば通常の社会生活を満喫できるようになる。そして選択から漏れた者は、さらにこれから長い透析生活を強いられることになる。
「もうひとり、一番の候補が移植を受けられないときのために五番の女性にも来ていただくことになっています」織田はいった。「ミスマッチ2、三十六歳、透析歴三年半です」
「わかった」
 吉住は候補者ふたりのデータをプリントアウトした。麻理子が感染症などに罹っていて移植を受けられないような場合は三十六歳の女性が繰り上げ当選になる。ふたりは来院しだい検査を受け、移植に適しているかどうかをチェックされることになる。
 吉住はさらにコーディネーターとスケジュールのやりとりを続けた。およその段取りは次のように決まった。まず吉住が大学病院での腎摘出をおこない、そこで腎の一方をコーディネーターの織田に渡す。織田は隣の県ヘシッピングし、吉住はもう一方の腎を市立中央病院まで運び移植をおこなう。織田はその計画ひとつひとつを吉住にきちんと確認していった。腎の摘出と移植手術は時間との勝負である。ドナーの心停止後は綿密なタイムスケジュールに乗って行動する必要がある。執刀医である吉住や手術助手、看護婦、それにレシピエントの息が合うように調整をおこなうのもコーディネーターの仕事だ。
 織田との打ち合わせを終えると、吉住は、
「よし」
 と声を上げ立ち上がった。今度は成功させてみせる。安斉麻理子。今度こそ、この子を助けてやる。
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