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パラサイト・イブ2-1

时间: 2019-07-27    进入日语论坛
核心提示: 第二部 Symbiosis 共棲       1 片岡聖美《かたおかきよみ》は、自分の誕生日が好きだった。 誕生日が近づくと、
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  第二部 Symbiosis −共棲−
       1
 片岡聖美《かたおかきよみ》は、自分の誕生日が好きだった。
 誕生日が近づくと、学校も、街も、すべてが活気づき、楽しげに笑い、歌い出す。それが好きだった。もちろん、喜びに溢《あふ》れるみんなの顔が聖美の誕生日のためだけではないことを心得てはいた。だが自分の誕生日に世界中の人が楽しいと思ってくれているというのは悪い気分ではなかった。その日はいつも商店街に赤鼻のトナカイやジングルベルのメロディが鳴り渡り、道行く人達はみな笑みを浮かベている。それは一年の中で一番素敵な一日だった。
 クリスマスが近くなると、聖美の家の居間には本物の縦《もみ》の木が飾られるのが習慣だった。幼稚園児だったころから、聖美は両親と一緒に飾り付けをした。ぴかぴかと光る電球のコンセントをまず初めに入れるのは聖美の役目だった。わざと部屋を暗くしてから電球を点けた。大きな椎の木が青や赤の輝きを発し、部屋の壁紙を照らすのを見ていると、クリスマス・イヴが誕生日で本当に良かったと思った。
 幼稚園や小学校のときは、毎年友達を大勢家に呼んで誕生パーティーをした。ショートケーキや鶏肉など、料理のほとんどは母親が作ってくれた。聖美もサンドイッチを作るのを手伝ったりした。母親と一緒に料理するのはとてもおもしろかった。料理が出来上がるころ友達がやってきて、口々に、
「聖美ちゃん、お誕生日おめでとう!」
 といった。みんなが持ってきてくれるプレゼントが縦の木の下に積み重ねられてゆくのを見るのが楽しかった。大きなテーブルを囲んでみんなで食事をし、ゲームをしたり歌をうたったりした。聖美はピアノの先生から習った<きよしこの夜>をひいた。みんなが帰った後、父親と母親からプレゼントをもらった。それは大きなぬいぐるみだったり、面白そうな本だったりした。
「聖美はね、ちょうどこの時間に生まれたのよ」
 小学校三年の誕生日のとき、母親が壁にかかった時計を見上げながらいった。
 父親はソファに座ってパイプをくゆらせていたが、暖かい眼差しで聖美に笑いかけ、そのあとの言葉を引き継いだ。
「聖美の泣き声が聞こえたのは、夜の九時だったよ。とても可愛らしくて、元気な泣き声だった。お母さんは嬉しくて泣いていたんだよ。その夜は雲ひとつなかった。真夜中になってから、お父さんは病院の窓から外を眺めた。その病院は丘の上にあってね、街のあかりがとてもきれいだった。空の星もよく見えた。聖美という名前をつけることを決めたのは、そのときなんだ」
 ぬいぐるみを抱きながら聖美はベッドの中でサンタクロースが来るのを待った。しかし眠気に負けて目を閉じてしまうのが常だった。
 クリスマスの夜、聖美はきまって夢を見た。
 そこは暗かった。どこからか低いうなりが絶え間なく聞こえてきていた。どちらが上でどちらが下なのかもわからない。ゆっくりとした流れが身を包んでいて、それに任せて漂っている、そんな感じだった。周囲はほどよい暖かさで満たされていた。時間が動いているのかどうかさえわからない。ここはどこなのだろう、そう聖美は思いながらも、不思議と懐かしさを感じていた。確かに昔、自分はここにいた。だがそれがどこなのか、どうしても思い出せなかった。ただ暗く、何もない、夢のような夢……。
 朝、目が覚めると、枕元には両親からもらった誕生日プレゼントと同じくらい素敵なクリスマスプレゼントが置かれていた。
 一度、聖美は両親に訊《き》いてみたことがある。
「サンタのおじいさんて、夢を見させてくれるの?」
 両親は何のことか分からないといったふうに顔を見合わせた。聖美はクリスマスの夜に必ず見る夢の内容を話してきかせた。両親はしばらく不思議そうな顔をして聞いていたが、前にいたところみたいだと聖美がいうと、驚いて感心したような声を上げた。
「パパとママはどこなのか知ってるの?」
 そう訊くと、母親が優しい笑顔で聖美を抱き締めていった。
「それはね、たぶんママのおなかの中よ」
「おなかの中?」
「聖美はお母さんのおなかの中から生まれてきたの。きっとそのときに見たことを思い出したのね」
「ママのおなかの中って暗いの?」
「そう、暗くて、あったかくて、お風呂の中で浮いてるような感じなの」
「ふーん」
「ママはそんな夢を見たことがないわ。聖美は記憶力がいいのね」
「ほかの人はそんな夢は見ないの?」
「たぶんね。みんなは忘れちゃうのよ」
 その後、母親は父親となにか難しい話をしていた。胎教がどうだとか、記憶の形成がどうとか、聖美にはよくわからない内容だった。しかし、聖美は母親の説明に一応納得しながらも、どこか釈然としないものを感じていた。夢で見た景色は、もっと古いもののような気がしたのだ。自分が生まれる前に見た景色だということはすんなり受け入れられた。だが、自分が母親のおなかにいたときというような近い過去ではなくて、もっと遠い、どこかずっと、ずうっと遠い昔の景色のような気がした。
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