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パラサイト・イブ2-2

时间: 2019-07-27    进入日语论坛
核心提示:       2 陽射しが暑い。 浅倉佐知子は軽く手をかざしながら上空を見やった。綿のような雲が右から左へと滑ってゆく。
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 陽射しが暑い。
 浅倉佐知子は軽く手をかざしながら上空を見やった。綿のような雲が右から左へと滑ってゆく。上空は風が強いのだろう、しかしこうしてアスファルトの上に立っていると、そよとも空気は動かず、ただ、じわじわと湧き立つ熱気しか感じられない。浅倉は首筋に浮かんだ汗の粒をハンカチで拭った。黒のワンピースが気のせいか重く感じられる。日光から逃げるようにして浅倉は建物の影に走りこんだ。
 告別式がたったいま終わったところだった。
 浅倉は他の学生や職員とともに、永島利明の家でおこなわれている葬儀の手伝いにきたのだった。葬儀社の人達や遺族の親戚《しんせき》などで人手はほとんど間に合っていたらしいのだが、浅倉は無理やり利明に頼み込んで受付係として使ってもらった。もうすぐ出棺がおこなわれる。浅倉はひと足はやく外に出て、霊枢車《れいきゆうしや》が通れるかどうか確認しにきたのだった。
 利明は公務員の集合住宅に住んでいた。灰白色の壁はところどころに罅《ひび》が入り、年代を感じさせる。四階建てで一棟に二十四世帯が入居している。利明はこの三階で、今は故人となってしまった配偶者と暮らしていたのだ。浅倉がこのアパートに来たのは今回が初めてだった。このあたりは昔は田圃《たんぼ》ばかりだったのだろう、しかし現在はこぢんまりとした家が密集し、どこかうら寂れた感じの住宅街になっている。
 アパートの駐車場は参列者が乗ってきた車で溢れていたが、どうにか車一台分は通れるスペースが残っていた。どの車も強い日光に照らされて熱を持ち、ゆらゆらと湯気を上げている。不用意に触れば火傷《やけど》しそうだった。アパートの表の細い道路も午睡したように静まりかえっている。ときおり遠くからバイクのエンジン音が谺《こだま》してくるだけだった。突然あたりが紗《しや》をかけたように薄暗くなった。視線を上げると、いつの間にか新しい雲が現れて太陽を覆っていた。浅倉は一歩踏み出し、アパートの壁から離れた。そのとたん再び光が戻り、目の前が白く露光していった。浅倉は眩《まぶ》しさに一瞬目を細めた。
「これで一階だぞ」
 誰かの声がして、続いてがたがたという音が聞こえてきた。振り返ると、何人かの男性が枢《ひつぎ》を抱えて階段を降りてくるところだった。塗装が剥《は》がれかけたコンクリートの階段は狭く、踊り場で枢の向きを変えるのに手間取っているようだった。その前方には位牌《いはい》を両手にかかえた利明がおり、故人の両親らしき男女が遺影を抱いているのも見えた。
 葬儀社の人が駐車してある車の問を縫って手際良く霊枢車をバックさせ、アパートの脇につけた。後ろの扉を開ける。何度か小さな掛け声が上がって枢がその中に入るのを、浅倉は後方から黙って眺めていた。
 出棺の準備がととのったところで、会葬者が車の後方に輪を描くようにして集まった。挨拶《あいさつ》があるのだということに気づき、浅倉は速足でそちらのほうに向かった。一番後ろに遠慮がちに立つ。それでも背が高いおかげで輪の中央にいる利明の顔を見ることができた。
「本日は御参列いただき、本当にありがとうございました……」
 利明が話し始めた。だがその喋《しやべ》り方は淡々としていた。声に抑揚はなく、なにか暗記した台詞《せりふ》を棒読みしているような、そんな違和感があった。ただひとり、利明の横で遺影を抱えた故人の母親らしき人が涙をこらえて鳴咽《おえつ》していた。小柄で髪にもつやがある。額や口元には幾つかの搬《しわ》が刻まれていたが、驚くほど幼い感じに見えた。少女時代にはさぞ愛くるしかったのだろう、それがそのままこれまで保たれて生きてきたようだった。父親らしき人物は反対に貫禄のある壮年だった。俯《うつむ》き、目を伏せて、じっと利明の話に聞き入っているようにみえた。だがときどき肩のあたりを震わせ、悲しみを隠しきれずにいた。そのふたりと利明の無表情な声が不釣り合いで、暑い陽射しの底に揺れる陽炎《かげろう》のように現実感がなかった。
 通夜のとき、そしてつい先程おこなわれた告別式のときの利明の顔が、浅倉の脳裏に蘇った。喪服に身を包み、祭壇の横に座っていた利明は、しかしこれまで浅倉が見慣れていた利明ではなかった。優しい面差しで、だが実験のときは鋭い表情に変わる、あの実験室で見ていた利明ではなかった。顔色は白く、目の下に隈《くま》をつくり、ときどき寒いのか奥歯をかちかちと鳴らしていた。指先が軽い痙攣《けいれん》を起こしていた。浅倉は昨夜講座の面々と駆けつけ、初めてその表情を見たとき、あまりの変わりように一瞬言葉が出なかったくらいだ。
 決して広いとはいえない利明の住居を占領している祭壇には、大きな白黒写真の遺影が飾られていた。まだ少女の面影さえある女性の笑顔が写っていた。一度だけ浅倉はこの写真の人を見たことがあった。先月の薬学部公開講座のとき、利明はこの女性を連れて大学に現れたのだ。笑顔が魅力的だった。浅倉よりわずかに年上だったはずだが、顔立ちのためか浅倉よりも数歳若く見えてどぎまぎしたものだ。聖美という綺麗な名前だった。
 枢に納められた遺体を遠くから眺める機会が何度かあり、浅倉は見るともなしに故人の顔を見た。なんでも交通事故で頭部を打ったとかで、頭蓋《ずがい》の部分ば白い布で覆われていた。そのため以前に見たときと少し印象が違っていたが、それでも愛らしい顔立ちであることにかわりはなかった。死化粧が施され、口元は軽く微笑んでいる。透き通りそうなほど白いその頬《ほお》は、滑らかで肌理《きめ》が細かく、浅倉はふと、そこに触れてみたいという奇妙な欲求さえ覚えた。
 利明は式の途中、何度も遺影のほうを窺《うかが》っていた。会葬者たちの悔やみの言葉など半分も聞いていないようだった。大部分の時間は放心し、そしてときおり思い出したように遺影に向かって笑みを浮かベた。昨夜、浅倉は偶然にもその利明の表情を目撃してしまった。その表情があまりにも穏やかだったために、却《かえ》って浅倉はぞくりとするものを覚え、慌てて視線を逸《そ》らした。なにか故人と利明の間の秘密を盗み見てしまったように感じた。
 利明の話は続いている。途中で何度も利明は「聖美」と故人の名を呼んでいた。強い陽射しが絶え間なく降り注ぎ、会葬者たちは汗を浮かベて次第に疲労の色を見せ始めた。しきりにハンカチで額を拭く者もいる。しかし大半は力なく俯き、その場に立って利明の話が終わるのを待っている。
 利明は変わってしまった。今度のことがあってから精神のバランスを崩しているように見える。自分の知らない利明になってしまったような気がして、葬儀を手伝いながらも浅倉はほとんど利明に声をかけることができず、心の中でわだかまりが増すばかりだった。先日、夜中に突然研究室に現れたときもそうだ。話しかけようとする浅倉を怒鳴りつけ、なにかに懸《つ》かれたかのようにクリーンベンチ操作をおこなっていた。あの後ひとことも口をきかずに利明は病院に戻っていった。そのときに見せた表情がやはり、中毒者のように陶然としていたのだ。利明がいなくなったあと、浅倉はこっそりとインキュベーターの中を覗《のぞ》き、利明がなにをおこなっていたのかを確かめようとした。インキュベーターの中には新しい培養フラスコと6ウェルプレートが置かれていた。その蓋《ふた》の部分には利明の字で「Eve」と書きなぐってあった。聞いたことのない名前だ。そっとフラスコを取り出し、顕微鏡で中を覗いてみると、生きのいい細胞の姿が見えた。だが何の細胞なのかはわからなかった。そしてなぜ利明があんなに異常な言動を取ってまでその細胞を培養したのかもわからなかった。なぜか気味悪さを感じて、浅倉は急いでフラスコをインキュベーターに戻した。もとのとおりに置いたつもりだったが、手をつけたことを悟られないかと少しびくびくしたのだ。
 そしていま、会葬者たちに挨拶する利明の声が、微妙に変化してきていることに浅倉は気づいた。
「……これから聖美の遺体は出棺するわけですが、しかし、聖美はまだ死んだわけではあり.ません。聖美の腎臓が、ふたりの患者さんに移植されました。患者さんの体の中で、まだ聖美は生ぎているのです」
 淡々とした中に、どこかほのかに昂《たかぶ》った感情が見え隠れしていた。言葉の端々に力が込められている。それはもはや故人を悼《いた》む口調ではなくなっていた。一瞬、利明の口元に僅かな笑いが浮かんだのを浅倉は見逃さなかった。口が渇いたのか、利明は何度も舌を出して唇を拭っていた。それを見ているうちに浅倉も口の中が乾いてゆく感覚に捕らわれた。陽の光が散乱し、あたりを白く霞ませていった。全ての人が汗を浮かベ、押し黙って視線をアスファルトに落としている。その中で利明だけが顔を上げ、最後の礼を述べている。奇妙な不安に駆られながらも、浅倉はそんな利明の表情から目を逸らすことができなかった。利明が挨拶を締めくくった。
「聖美はこれからも生きているのです」
 浅倉が我にかえると、人々はすでに行動を開始していた。利明ら遺族が数人、二台の車に分かれて乗り込み、車を表の道路まで出した。残りの者たちは少し離れて車を見送るよう、アパートの玄関口のところに集まった。
 まずはじめに霊枢車が、そして利明たちを乗せた黒いセダンが続き、低い音を立てて走り去っていった。交差点を曲がって見えなくなる寸前、霊枢車の黒いボディがひとつ冷徹な光をひらめかせた。
 しばらく皆はその場で立っていたが、
「それでは、遺骨迎えの準備をしますので」
 親族の者らしき男性がそう声をかけたのでほっとした感じのざわめきが起こった。男がアパートの階段のほうに戻るのを見て、他の人々もぞろぞろとそれについてゆく。浅倉もその最後尾についた。
「あの旦那さん、ちょっと変だったわよねえ」
 そのときそんな声が聞こえて、浅倉ははっと顔を上げた。前にいるふたりの中年女性が話をしているのだった。故人の親戚か知人らしいが、すぐに世間話を始めたところをみるとさほど親しかったわけではないのかもしれなかった。
「これからも生きていますだって。なんか気味悪いじゃない」
 他人には聞こえないようにしているつもりなのだろうが、高い声なので嫌でも耳に入ってきた。浅倉は不快感を感じ、少し離れて階段を上がっていった。だがふたりの声は狙《ねら》ったように浅倉の耳に忍び込んできた。
「旦那さんのほう、お通夜のときもおかしかったじゃない。突然のことでやっぱり参っているのかしら」
「ああら、おかしかったのは通夜のときだけじやないって噂《うわさ》よ。ほら、聖美さんて、最近よく聞くじゃない、脳死だとかいう状態だったんですって」
「ああ、そうなの? よく知らないけど、あたしはそんなふうには絶対になりたくないわね」
「でね、あの旦那さん、聖美さんの腎臓を移植に使うことを承諾したわけよ。そのときから様子がおかしかったとか」
「でもよく移植なんか許したわよねえ。自分の奥さんの体から腎臓を取り出すわけでしょ、奥さんが可哀想だとは思わなかったのかしらねえ」
「わざわざ遺体を傷つけてねえ。ほんと、案外旦那さんがいい格好したかっただけなのかもしれないわよねえ」
 耐えられなかった。浅倉はむかむかする胸を押さえ、その場から少しでも離れようと階段を駆け上がった。
「失礼します」
 話を続けるふたりを突き飛ばし、浅倉は必死で階段を上っていった。
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