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パラサイト・イブ2-13

时间: 2019-07-27    进入日语论坛
核心提示:       13 暑い日が続いていたが利明は休まずに大学へ出勤していた。研究室の中は冷房が効かないが、培養室と機器室に
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 暑い日が続いていたが利明は休まずに大学へ出勤していた。研究室の中は冷房が効かないが、培養室と機器室にはクーラーが入っているので、そこで実験をしている分には汗をかかずにすんだ。少なくとも蒸し風呂のようなアパートの中でじっとしているよりはましであった。
 Eve1の増殖は衰えを見せなかった。ペルオキシゾーム増殖薬であるクロフィブレートを添加するようにしてからは分裂速度が以前より上昇している。
 明らかにEve1は誘導を受けていた。だが利明はこれだけで満足はできなかった。ペルオキシゾーム増殖薬はクロフィブレートだけではない。ほかの試薬を与えてやればさらに加速する可能性があった。
 利明は研究室の冷蔵庫に保存されていたあらゆるペルオキシゾーム増殖薬を取り出し、Eve1に与えてみることにした。同時にレチノイン酸や幾つかの成長因子も添加してみた。ペルオキシゾーム増殖薬がミトコンドリア内のβ酸化系酵素を誘導させる理由として、DNA結合タンパク質であるレチノイドレセプターに結合することが論文で報告されている。このレチノイドレセプターが酵素遺伝子の働きを司っている可能性は十分に考えられた。
 利明はトリチウムチミジン取り込み量を測定し、Eve1がどれだけの増殖能を獲得するか調べていった。
 予想以上の結果だった。レチノイン酸とペルオキシゾーム増殖薬の同時投与により相乗効果が現れた。液体シンチレーターがプリントアウトしたカウント数は利明がこれまで見たこともないほどの高値を示した。利明は唸《うな》り声を上げるほかなかった。
「先生、あの……」
 自分の机でそのデータを見ていたとき、不意に後ろから声をかけられた。
 振り返ると浅倉佐知子が立っていた。
「なんだい?」
 そう答えて、ようやく利明は研究室の中に自分と浅倉以外誰もいないのだということを思い出した。数日前から講座の職員や学生はみな盆休みで休暇を取っていたのだ。
 浅倉は少し顔を伏せ、言い出しにくそうにしている。いつものはきはきとした浅倉らしくない。何度か促したところでようやく用件を切り出した。
「そろそろ学会の準備をしようと思うんです」
「ああ……そうだったな」
「それで、すこしのあいだEve1のほうを休んで前の実験の続きをやろうと思うんですけど……」
 利明は浅倉の言葉で学会があることをようやく思い出した。なんてことだ、Eve1に気を取られすぎていたのだ。
 毎年一回開催される日本生化学会は、日本中の生化学者や分子生物学者が一堂に集い研究成果を発表しあう大規模な学会である。今年は利明たちが住むこの都市で九月に開かれることになっていた。利明や浅倉の所属する生体機能薬学講座では毎年何人かが演題を出して発表をおこなう慣例になっていた。とくに修士学生は在学中に一度は発表することが講座の方針だった。博士課程の学生なら自分で論文を書いたり学会発表する機会は多いが、学部学生や修士学生は卒業時の論文発表のときくらいしか大勢の前で発表する機会がない。そのため学会というものは発表の経験をするという意味では格好のイベントだった。学生は学会で発表することにより、人前でプレゼンテーションをしたり自分の考えを筋道立てて相手に伝えるという訓練をすることができる。それに自分のおこなった実験をみんなに知ってもらえるということは学生にとっても嬉しいはずだった。ただし、最初の発表はどうしても勝手がわからないこともあり、緊張するし準備も万全とはいえなくなってしまう。それをフォローするのが職員の役目ともいえた。
 浅倉は今回が初めての学会発表となる。早めに準備をしておきたいと考えるのは当然だった。スライド原図の作り方や発表の仕方も知らないのだ。もっと気をつけてやるべきだったのにそれを利明は怠っていた。利明は素直に浅倉に詫びた。
「そうか……そうだったな。ごめん、いったんEve1の解析は中断しよう」
 その言葉に浅倉はほっとしたような表情を浮かべた。
 利明はスライドに用いるデータが揃っているか浅倉に確認した。いくつかプロッティングの写真を図に組み込む必要があるので、後日スキャナーの使い方を教えることで話がまとまった。
 その夜、帰宅する間際に利明はEve1の様子を見た。浅倉は機器室で吸光度の測定をしている。
 浅倉にはEve1の実験は中断するとはいっておいたが、利明は内密にひとりで実験を進めようと思っていた。とりあえずペルオキシゾーム増殖薬とレチノイン酸を添加して何代か継代してみるつもりだった。Eve1の性状が変化する可能性がある。
 利明は培養フラスコをひとつインキュベーターから取り出し、顕微鏡の下に置いた。レンズを通して覗き込むと生きのいい細胞の形が浮かび上がってきた。
 いまとなっては学会で発表する結果より、Evelの見せる驚異のほうが利明にとってはよっぽど重要だった。利明も今度の学会で発表することになっていたが、それは半年前のデータであり、Eve1の解析結果ではない。普通、学会の発表申し込み締め切りは学会開催日より数ヵ月から半年も前に設定される。そのとき発表内容の要旨も一緒に送らなくてはならないため、いくらそのあとでいいデータが出たとしてもそれを付け加えて発表するのはよほど発表内容と関連していない限り難しい。ましてや発表当日になって勝手に内容を変えることはできない。だが利明は今度の学会でEve1によって得られたデータを報告したいという強い衝動に駆られていた。この数週間で出た結果を発表すれば、大きな反響を呼ぶことは間違いなかった。
 それだけではない。これらのデータは必ず一流の学術雑誌にアクセプトされる。その論文はミトコンドリアを研究する者たちに大きな衝撃を与えるはずだ。世界中の研究機関からEve1を供与してほしいという手紙が届くだろう。聖美の細胞が世界中で生き続ける。それを想像するだけで利明は嬉しくなった。
 Eve1はフラスコの底面で幾つものコロニーを形作っていた。昨夜かなり薄く細胞を撒《ま》いて継代したのに、もうこれだけのコロニーができている。あらためて利明はEve1の信じがたいまでの増殖速度に目を瞠《みは》った。浮遊系の癌細胞と同じか、あるいはそれ以下の数で継代しないと一日でフラスコ一杯になってしまう。幸い、Eve1は少ない数で継代してもあまり影響を受けないようだった。それほど増殖力が強いということなのかもしれない。利明はなにげなく視野の中央に位置しているコロニーを眺めた。
 そのとき、音が聞こえてきた。
 最初、利明はどこかで蝿《はえ》が飛んでいるのかと思った。それほど微かな喰りだった。
 ぷーんともずーむとも書き表せるような音だった。空の上から聞こえてくるようでもあったし、床下から響いてくるようでもあった。なにかが震えて動いている、そんな感じの音だった。
 だがやがてその音は強さを増していった。はっとして利明は顕微鏡のレンズから目を離し、辺りを見回した。そしてさらに音が大きくなったとき、それはすぐ近くから発せられているということがわかった。稔りには強弱がついていた。波を描くかのように大きくなったり小さくなったりする。周波数が刻々と変わっているのかもしれない。体の中が震えていた。音に共鳴しはじめていた。体中の電子が揺さぶりをかけられているようだった。
 利明は顕微鏡の台に置かれているフラスコを見つめた。フラスコの中の培地が波紋を立てていた。オレンジ色の輪がフラスコの中心から湧き起こり、広がって拡散してゆく。その中心はちょうど顕微鏡の放つ光線が当たっているところだった。利明はごくりと唾《つば》を呑んだ。音はさらに大きくなっていた。波紋がフラスコの壁にあたって散乱し、複雑な紋様が次々に描かれてゆく。Evelだ、利明は心の中で叫んだ。Eve1が呼吸している。慌ててレンズに目を当てた。
 コロニーが脈打っていた。
 どくん、どくん、と表面を上下させる。心臓のように隆起と陥没を繰り返す。コロニー自体がひとつの多細胞生物になっているかのようだった。いっの問にかコロニーは大きくなっていた。細胞が増殖し、周りに広がったのに違いなかった。コロニーは視野いっぱいにまで膨れていた。どくん、どくん、と毒《うごめ》くたびに視野がぶれる。細胞が培地を波立たせているのだとわかるまでに少し時間がかかった。この脈動が培地を震わせ、あの低い音を作り出していたのだ。
 利明はレンズから目を離すことができなかった。コロニーに魅せられていた。こんなものを見るのは初めてだった。なにか全く新しい生命体を見ているようだった。
 だが、それだけでは終わらなかった。
 コロニーが変化を始めた。すこしずつ形状が変わってゆく。利明は息を呑んだ。コロニーの中央が盛り上がり、山のようになってゆく。その上部左右がふたつ、反対に丸く陥没をはじめた。下のほうには横一文字に亀裂ができようとしている。コロニーの上端に位置する細胞は急激にその形を変えていった。繊維芽細胞のように細くなり、そして一定の方向性を持って整列を始めた。
「ばかな……」
 利明は呻いた。
 そこに現れようとしているのは、人間の貌《かお》だった。
 コロニー全体がひとつの顔を形作ろうとしていた。ふたつの眼が、鼻が、口が、そして髪が形成されていた。細胞はまだ動きを止めようとはしなかった。さらに分化を繰り返している。次第にその顔は粗削りなものからマネキンのように精緻《せいち》なものへと進化していった。まぎれもない、利明が見たことのあるひとりの人間の顔が浮かび上がりつっあった。
「なんてことだ……」
 聖美だった。
 聖美の顔だった。聖美が真正面にこちらを向いて利明を見つめていた。すでに細胞は聖美の瞳《ひとみ》やふっくらとした唇までも再生している。生前の聖美とまったく変わるところがなかった。
 細胞が分化を止めた。完壁な聖美の顔がフラスコの底にへばりついていた。利明はそれを凝視していた。喉の奥がからからに乾いていた。
 そして聖美の口が動いた。
 聖美の唇と舌が動き、ゆっくりと四つの形を順に利明に示していった。
 フラスコからいままでとは違う音が響いた。いや、実際にその音が聞こえたのかどうかは定かではなかった。利明の体の中で共鳴しただけなのかもしれない。だが利明にはその音がはっきりとわかった。
<ト、シ、ア、キ…>
 そういったのだ。
「聖美!」
 利明は叫んでいた。間違いなかった。これは聖美だ。話しかけようとしてきているのだ。利明は必死で聖美に呼びかけ続けた。
「聖美! 俺だ! 聞こえるぞ聖美! おまえの声が聞こえるぞ!」
 がたん! と音がした。
 はっと利明は顔を上げた。培養室の扉が音を立てたのだ。扉にはめ込まれている磨《す》りガラスに、一瞬黒い影がさっと映るのが見えた。
 誰かに見られていたのだ。
 いまの声を聞かれただろうか?
 利明は扉に駆け寄り、隙間から廊下を見渡した。だが誰もいなかった。もう走り去っていったのかもしれない。
 浅倉だったのではないか? その考えが頭をよぎったが、部屋を出て確認することはやめた。
 利明は顕微鏡のところにとって返し、レンズを覗いてみた。だがそこにはいつもと同じ、小さなEve1のコロニーが見えるばかりだった。どう見てもそこには聖美の顔の面影すらなかった。唸るような音も聞こえなくなっていた。すべての痕跡が消え失せてしまっていた。
 いったいあれは何だったのだ?
 利明はしばらく呆然《ぼうぜん》とその場に立ち尽くしていた。
 
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