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パラサイト・イブ3-5

时间: 2019-07-27    进入日语论坛
核心提示:       5 利明は自分の車に乗り、エンジンをかけた。 ギアをドライブにいれ、アクセルを踏む。サイドブレーキを倒す。
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        5
 
 利明は自分の車に乗り、エンジンをかけた。
 ギアをドライブにいれ、アクセルを踏む。サイドブレーキを倒す。勢いよぐ車が飛び出した。一気にハンドルを切り通路を進む。料金ゲートの直前でアクセルをさらに踏み込む。フロントガラスでゲートを跳ね飛ばし、利明はおもてに出た。アクセルに力を入れたまま公道に入る。ハンドルを右に回して九〇度曲がり車線に乗る。横に振られ後輪が軋《きし》んだ。そのまま赤信号を無視して突っ切る。
 車内のデジタル時計は六時二四分を表示していた。雲が広がってきたのか、すでに視界は薄く墨を刷《は》いたように薄暗くなっている。交通量は幸いにして少なかった。利明は加速を続けた。前方に見える車には全て追い越しをかけてゆく。車体が右に左に大きく揺れる。
 いますぐEve1を死滅させる必要があった。一秒でも長く放っておくわけにはいかない。
 やはりあれは幻覚ではなかったのだ。確かにEve1はフラスコの中から利明に呼びかけてきた。顕微鏡の向こうで形を変え、聖美の貌《かお》を造り、利明の名をこの脳髄に発してきた、あの出来事は現実だったのだ。
 ミトコンドリアが解放される日がやってきた。浅倉に取り懸いたEve1はそういっていた。私はミトコンドリア・イヴだ。そうもいっていた。単細胞生物だったときから潜んでいた。聞き間違いではない、そういっていた。それが嘘ではないのだとしたら、壇上で高らかに喋っていたものは正確にいうならEve1ではない。フラスコの中で聖美の貌を造ってみせたのもEve1の力ではない。
 ミトコンドリアだ。
 Eve1の中で回虫のように絡まり合い増殖を続けるミトコンドリアだ。生体機能薬学講座に所属して以来、ほとんどすべての時間をつぎ込んで解析を続けてきた細胞小器官《オルガネラ》、ミトコンドリアだ。そのミトコンドリアがEve1という宿主細胞を操っていたのだ。
 そういえばあのときもだ。今年の六月、薬学部の公開講座を聞いた聖美は石原教授に質問を浴びせた。利明はスライド・プロジェクターの操作をしながら、聖美の話す内容に驚かざるを得なかった。あのときの聖美は、それまで利明が知っていた聖美ではなかった。共に暮らしてきた聖美ではなかった。
 講義のあと、利明は聖美を問い詰めた。何が起こったのか、訊かずにはいられなかった。だが、どこでミトコンドリアについて勉強したのか、どうやってあれほど大胆な仮説を考えついたのか、聖美は最後まで説明しようとはしなかった。しかし今となってはその説明もつく。あれも聖美の中のミトコンドリアの仕業だったのだ。あのとき聖美はいった。ミトコンドリアが核を奴隷化する。まさにそれをやってのけたのだ。
 利明はいつか読んだ論文を思い出していた。「囚人のジレンマ」というゲームがある。ふたつの国が外交ゲームをおこなうのだ。それぞれの国はあらかじめ「協調」と「裏切り」という二種類のカードを所持している。どちらかの行為を相手国に対しておこなうことができるのだ。ふたつの国は同時にカードを見せる。両者とも「協調」ならふたつの国はそれぞれ3ポイントを得ることができる。相手が「協調」なのに自分が「裏切り」を出したのならば、相手は0ポイントで自分は5ポイントを得ることができる。両者とも「裏切り」ならお互いに1ポイントを得る。ふたつの国は相手のカードの出し方を読みながら、何度もカードを出し合い延々と交渉を続けてゆく。それはまさしく、異なった生物同士がいかに自然界で自分の利益を最大限に伸ばしながら生存を続けてゆくかという共生シミュレーションだ。
 このゲームで最も高いポイントを上げることができるのは、初めは「協調」を出し、後は一回前に相手が出したカードを真似て出すという戦略だ。最初に柔順なところを見せ、そしてやられたらやりかえす。「しっぺ返し戦略」と呼ばれるものである。なんとも単純な方法だ。だがシミュレーションの結果からだけ考えれば、これが自然界で生き残る最良の選択なのだ。
 宿主とミトコンドリアとの共生関係も例外ではないはずだった。はるか昔から核ゲノムはそうしてミトコンドリアと一緒に暮らしてきたはずだ。そして今後もずっとそのゲームは続くはずだと誰もが信じていた。少なくとも核ゲノムはそう信じていた。
 だが、このゲームが永遠には続かないとしたら?
 もしも、次の一手でゲームはおしまいだと宣告されたら?
 もしそうなったとしたら、必ず勝つ方法がある。途中まではこの「しっぺ返し戦略」を使い、そして最後のゲームでは、相手の前のカードが何であれ「裏切り」を出せばいい。それだけだ。
 ミトコンドリアはこれでゲームを終わらせるつもりなのだ。もう核ゲノムとは共生しない、そう決意したのだ。だからミトコンドリアは「裏切り」のカードを目の前に突き付けてきた。
 核は負けるしかない。
「……ばかな」
 利明は唇を噛んだ。そんなばかな話はない。
 薬学部の建つ丘へ通じる道が見えてきた。前方のT字路を左折すれば、あとは一本道を登るだけだ。赤いミニがのろのろと前を走っている。利明はアクセルをふかした。信号の手前で追い越せそうだ。
 そのとき信号が黄色に変わった。
 ミニがブレーキを踏む。突然だった。利明はそれを予測していなかった。判断が一瞬遅れた。間に合わない。ミニの赤い後尾ランプが加速し目の前に迫ってくる。
「くそっ」
 ハンドルを切った。
 対向車線からセダンが突っ込んできた。ハンドルを切り返す。利明はミニとセダンの間を走り抜けた。セダンが右の並木に突っ込んだ。さらにハンドルを回す。車が横転しそうだった。甲高い音が響く。後方でホーンが鳴っている。利明はギアを変え、アクセルを踏んだ。T字路を抜ける。バックミラーがアスファルトの上に刻まれたタイヤの軌跡を映した。ギアを戻す。薬学部へと加速する。
 Eve1に巣喰ったミトコンドリアはどこまで宿主を動かすことができるのか。それが問題だった。ミトコンドリアはエネルギー産生の場だ。生命の運動はエネルギーを消費することによっておこなわれる。筋肉細胞でミトコンドリアの働きが向上しているのはそのためだ。ミトコンドリアは酸素と栄養さえあればいくらでもエネルギーをつくることができる。β酸化誘導剤を与ええられたとしたらなおさらだ。
 利明はカーブの続く道を八○キロ近い速度でとばしていった。対向車がほとんどないのは幸運だつた。薬学部の校舎が林の向こうに顔を出す。もうすぐだ。
 薬学部前のバス停が見えた。大きく弧を描いて右折する。車体が大きくバウンドした。がりがりと下を擦《こす》る音がする。だが利明はかまわずに前進した。
 目の前に白い校舎が現れた。六階建てのその建造物が、なぜかとてつもなく大きく見えた。辺りはすでに暗くなろうとしている。駐車場にほとんど車はない。日曜日で、しかも学会期間中だ。人気がなくて当然だった。
 利明は玄関へと直進し、そしてブレーキを踏んだ。がくんと前のめりになって車が停まる。その反動がおさまらないうちに利明はドアを開け薬学部の中へと駆け込んでいた。
 革靴のままロビーを抜け階段を駆け上がる。堅い靴底が床を打ち大きな音を立てる。校舎の中に響き渡る。利明は一気に五階まで走って登った。
 廊下は暗い。誰もいないのだ。長い廊下を利明はつんのめるようにしながら全速で走った。この奥に利明の講座がある。そして培養室がある。
 ゼミ室の扉を開ける。壁に掛かった培養室の鍵《かぎ》をつかむ。廊下をとって返す。培養室のノブに鍵を差し込む。なかなか回らない。手が震えている。息が乱れる。鍵が一回転する。同時にノブを引く。中へ駆け込む。暗い。手を伸ばす。インキュベーターが見える。利明は跳躍する。扉に手が届く。息が詰まる。唾《つば》を呑み込む。取っ手を引く。
 中身が網膜に飛び込んでくる。
 利明は悲鳴を上げた。
 
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