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鬼平犯科帳の人生論69

时间: 2019-07-30    进入日语论坛
核心提示:● ウマの合わない人間とつき合う法[#ここから5字下げ]「高松。おぬし、やはり、御役目のことが忘れきれなかったのだなぁ」
(单词翻译:双击或拖选)
 ● ウマの合わない人間とつき合う法
 
[#ここから5字下げ]
「高松。おぬし、やはり、御役目のことが忘れきれなかったのだなぁ……」
「いえ、そんなことは……」
「わかっている、わかっている。もう何もいうまいよ。八年前、おぬしが御役目も、御先手《おさきて》組・同心も投げ捨てて、その身ひとつで江戸を去ったとき……いや、あのときのわれらの御頭が長谷川様であったら、と……いや、愚痴《ぐち》だ、やめよう」
[#ここで字下げ終わり]
[#地付き]「消《き》えた男《おとこ》」
 
 どんな職場にもウマが合わない人間はいるものだ。で、そのウマが合わない人が自分の直属の上司であったら、それはもう毎日、針のむしろの上で柔軟体操をやらされているようなものであろう。
「声を聞いただけで脳ミソに悪寒が走る」
「目が合っただけでゴキブリを素足で踏んだ気分になる」
「顔を思い浮べただけでシュレッダーにかけたくなる」
 こんな上司といったいどうやってつき合っていったらいいのだろう。
 ある友人の話をしよう。
 野球選手である彼は、試合で遠征に出かけることが多く、飛行機を利用することも頻繁にあった。がしかし、大《だい》の飛行機嫌いときている。
「あんな鉄の物体が空を飛ぶなんて信じられない」
 これが彼の口癖であった。
 離発着時のことや揺れのことを思い浮かべただけで、もう血の気が引いてボーッとなってしまう。具体的にその恐怖をイメージしようものなら、身体中にブツブツがでる始末である。
 これでは大事な試合にも集中できない。どうにかならないものだろうか。
 彼は飛行機に対する攻略法をあれこれと考えた。
 思いついたのは逆療法である。それからというもの、飛行機に関する本を買いあつめ、機種から安全性に至るまでの知識を得て、ちょっとした航空機の専門家になったのである。そのうち、飛行機の�正体�がわかってくると、飛行機への恐怖心が払拭《ふつしよく》できたばかりか、愛情さえわいてきたという(いまでは、「飛行機が怖い」という人をバカにしたりもしている)。
 反《そ》りの合わない上司とのつき合いにもこれを応用するとよい。毛嫌いして遠ざけるのではなく、その考えるところや興味をもっているものを知るように努めるのだ。
 最大の悩みは何か。
 誰を怖がっており、好意を抱いている人間は誰か。
 何にこだわりがあり、コンプレックスは何か……等々。
 これをひと月、小まめにメモしつづけるのである。そしてその横に、心にひっかかっている自分の気持ちや感想をできるだけ冷静に書きだしてみるのだ。
 じっさいやってみれば、発想の根っこがつきとめられ、行動の意味がわかり、これまでとは違った目で上司を眺められるはずである。ひょっとしたら、誤解や敵意が、理解や氷解、愛情や憐憫《れんびん》に変わるかもしれない。
 とはいっても、好意をもって近づくことはない。また他人に告げ口することでもない。いままでどおりしていればいい。
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