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テーブルの雲20

时间: 2019-07-30    进入日语论坛
核心提示:運命の力 私たち夫婦は同い年で、いわゆるクラスメイトである。慶應大学の国文科で三年間一緒に過ごしたのだが、かといって学生
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 運命の力
 
 
 私たち夫婦は同い年で、いわゆるクラスメイトである。慶應大学の国文科で三年間一緒に過ごしたのだが、かといって学生時代から恋人だったのかと思われては困る(いや別に困りはしないけれど、事実に反する)。
 よく、恋愛結婚ですか、それともお見合ですか、などと聞かれることがあるけれど、世の中にこの二つしか結婚というものがないように思っている人が多いのは、まことに怪しむべきことで、なにしろ私たちの場合は、そのいずれでもない、と言わざるを得ないのだ。
 では何かというと、そうさなぁ、「運命結婚」とでもいうところか、とそう答えるのが一番当っているだろう。
 クラスメイト同士だから、もちろんお見合ではない。しかし、学生時代の私たちは、単なる|お友達《ヽヽヽ》以上の何ものでもなかったのである。しかも、私は一年生の時の遊び過ぎと二年生の時の病気がたたって、二年から三年になるとき立派に留年し、結果的に妻の方が上級生となって先に卒業してしまった。そんなわけでじつのところ一緒のクラスに在籍したのは二年生の時の一年間だけだから、それほど親しくするチャンスとてもなかったのである。
 その上、どういうわけか国文科の女子学生の間での私の評判は散々で、頗《すこぶ》る女ったらしの不真面目《ふまじめ》男のように「誤解」されていたのに対して、彼女は至極真面目な優等生だった。つまり正直のところ、「相手にしていただけなかった」のである。それでも、色白で可愛《かわい》かった彼女に、私は勇気を振るって電話を掛け(これは本当です。私は意外に純情だったのである)交際を申し込んだことがある。そのときの彼女の返事は「あなたのような不真面目な人とは三十秒だっておつきあいする時間はありません!」というニベもないものだった。あとで聞いたところでは、これを脇《わき》で聞いていた彼女の母親が「男の方に対して、ああいうひどいことを言うものじゃありませんよ」とたしなめたそうである。
 かくして、私たちはまるで無関係のまま卒業し、彼女は大手の銀行に勤め、私はそのまま大学院に進んで一年余りの月日が経った。
 二十四歳になったばかりのある春の日、私は友人のO君の結婚式に招かれてホテルオークラに行った。その日は朗《ほが》らかな春の良日で、朝起きると私はどういうわけか突然に彼女に手紙を書く気になった。それはまったく理解を超えた天来の衝動にほかならなかった。ところが、やがて出かける時間になったので、私はその手紙を書きさして家を出たのである。
 ホテルについて、廊下でうろうろしていたところ、廊下の向こうの角から、ひょいと彼女が現れた。彼女は彼女で、全然別の結婚式に列席するために、そこにやってきたのである。その時、頭の中でジャジャーンと銅鑼《どら》が鳴ったような気がした。
 こうして出合い頭にばったりと再会したとき、すべてが決ってしまったようなものである。その日私は彼女を家まで送り、それから何回か会ったあと、二ヶ月程で婚約し、半年後に結婚した。聞けば、あのホテルで再会したその日、彼女も電車の中で突如私のことを思い出し、「チェッ、なんだこりゃ」と思ったのだそうである。だからホテルの廊下の向こうに私の姿を認めた時、彼女の頭の中でもジャーンと銅鑼が鳴ったのであったらしい。
 誰もがこういう不思議な経験をするのかどうか、それは知らない。しかし、以上書いたことはまったく正真正銘の真実で、何の誇張も脚色もない。
「こりゃぁ、運命かもしれない」
 そう口に出して言ったかどうか、それは覚えていない。しかし、お互いにそう思ったことは事実で、たぶん「かくなる上は仕方がない、結婚するか」とそのくらいのことは言ったような気がする。
 私の場合、何か人生の節目節目に、こういった不思議な事が起こる。それを後に私たちは「御先祖様のお示し」と思うようになった。だから、私たちの結婚は恋愛でもお見合でもなく、「運命の力」だったと、今顧みて思うのである。
 五月の良い日に、私は紋付を着て彼女の家へ正式の申し込みに行った。妙に畏《かしこ》まって、お嬢様を頂戴《ちようだい》したい、という旨《むね》を申し述べると、彼女の父親が俄《にわ》かに座布団《ざぶとん》から下りて正座し「謹んでお受けします」と横綱伝達式の角力《すもう》取りみたいなことを言った。みんな照れながら、それでもなかなか麗《うるわ》しい景色だった、と今も微笑ましく思い出される。
 まだ私たちの娘は十六歳だから、当分先のことであろうけれど、やがてこういう日がやってこよう。その時にやはり御先祖様が運命をお示しくださって、良い青年がやってきたら、私も座布団から下りて畏まり「謹んでお受けします」と言うことにしよう、とひそかにそう思っているのである。
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