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テーブルの雲25

时间: 2019-07-30    进入日语论坛
核心提示:しびれる 遺憾ながら、具体的な名前を失念してしまったのであるが、近世のドイツを統《す》べていたある精力絶倫の君主が、おの
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 しびれる
 
 
 遺憾ながら、具体的な名前を失念してしまったのであるが、近世のドイツを統《す》べていたある精力絶倫の君主が、おのれの生命と活力の永劫《えいごう》ならんことを希求して、当時の名高い医学者にその方途を探らせたことがある。その時、この医学者と生理学者と化学者と、そして幾分山師的素質をも兼ね具えた御用医者が発明した方法とは、次のようなものであった。
 
 即ち、全く窓の無い一辺五メートル程の小部屋を作り、出入りは厳重に気密を図った小さなドアから行うこととする。この部屋には、一方の壁に直径十五センチ程の丸い穴が開いていて、その穴には、ぴったりとガラスの導管がはめ込んである。さて、この部屋に、十三歳の処女を五人、全く裸にして押込め、暫《しばら》くそのまま放置する。かかる小空間に、体温の高い若い女が五人も居るわけであるから、程なくその体温で部屋の空気が暖められ、空気は次第に膨張して、一方の壁に設けられた通気管を通して、外へ流れ出てくる。王は、おもむろにその導管に鼻を接して、この処女たちの体から発した芳醇《ほうじゆん》なる香気を胸一杯に吸入するというのである。
 果たして本当にこの装置を以《もつ》て王が長命を得たかどうか、それは定かでない。しかし、何だか分る気がするではないか。
 似たような話は、中国にもある。有名な、唐の玄宗皇帝が、まだ楊貴妃《ようきひ》に巡りあう以前のことである。彼は若い頃はなかなかの名君で、国は平らかに治《おさま》っていた。その玄宗が、冬の寒い頃、世にも麗しい方法で暖を取ったことが知られている。まず、後宮の美女の中から二十人程の嬪妃《ひんひ》を選び出して、これを自分の座る玉座の周りに隙間《すきま》無く立たせる。すると、如何《いか》なる寒風も、これらの乙女たちの体温で暖められて、皇帝の所には馨《かぐわ》しい暖風となってほのかに届いてくる。これを「風流陣《ふうりゆうじん》」と言った、と物の本には書いてある。
 
 ある号の「クウォーク」誌によると、リンゴとバナナの区別すらつかなかった「鼻オンチ」の青年が、異性のTシャツの匂《にお》いを嗅《か》ぎ当てるテストでは、正確にこれを識別し、しかもこの実験に参加した男女とも、同性のTシャツやパンツを嗅ぐのは嫌《いや》だが、異性のそれについては、寧《むし》ろ欣然《きんぜん》としてこれに当ったというのである。
 
 女ばかりではない。男でもたとえば光源氏のような理想的美男ともなると、全身から馨しい匂いを発し、その歩いたあとには、ほのぼのと残り香がたちこめた。これを「追い風」と言った。学習参考書などでは、これを「衣《きぬ》に焚《た》き込めた香の匂い」だと説くのであるが、蓋《けだ》し人の心の奥深さを知らない、女学校の石頭先生的な愚かな考えである。私は男であるから、若く美しい青年の体から如何なる匂いが発せられるか、知りもしないし、また興味もない。しかし、紫式部のような女たちには、それが「心を痺《しび》れさせるもの」として、感覚せられたのに違いない(実は既にこの男の体から発せられる性的誘引物質は一つだけ解明され、フッフッフッ、それを配合した男性用の香水が発売されている)。翻《ひるがえ》って、私は長らく女子大の教師であったから、若い美しい女たちの体から、名状し難い芳香が放たれているのを知っている。これは香水や化粧品の匂いではない。そういう人工的な香料のはざまに、鼻腔《びこう》を穿《うが》って男の理性を麻痺《まひ》させる毒が紛れているのを、私は知っている。ところが、何という皮肉であろうか、この「痺《しび》れ薬」は、女たちが結婚して子供などを産むに及んで、跡形もなく消えてしまうのである。すると、男たちはハタと正気に返る。正気に返ったところで、男たちの周辺には、良い香りのする若い娘たちが、うようよしているのである。しかし、嗚呼《ああ》! 女たち自身は、ついぞそのことに気が付いていないらしい。おしなべて、世のおとこおんなの悲喜劇は、こうした罪な匂いに発祥するのであるかもしれぬ。人間、下半身には別の人格がある、などというのは、かかる消息を言うのであるが、思うにこれはやはり一種の性フェロモンというべきものであろう。
 性フェロモンの誘惑によって惹起《じやつき》される性的衝動が、極めて原始的なあるいは動物的なものである以上、いかに理性を道徳を錬磨《れんま》したところで、これを十全に打消すことは出来|難《がた》い。恐らくは、脳味噌《のうみそ》の内部に於《お》いて性衝動を司《つかさ》どる部位が、たとえば鼻の粘膜から来た匂いを感知する部分と極めて近接し、ぬき難い連続性を有しているのに違いない(だからこそ、なべて動物は百里の彼方《かなた》の異性を匂いで発見して匹偶《ひつぐう》を得、種の保存が可能になるのだ)。浜の真砂《まさご》は尽きるとも、世に下着|泥棒《どろぼう》なぞの種は尽きまじく思われるのは、案ずるに当然至極の道理であったのだ。
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