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テーブルの雲42

时间: 2019-07-30    进入日语论坛
核心提示:タイヤは日に干して ロンドンに初めて渡ってすぐ、私は自動車を買おうと思った。 なにしろ、もうこの二十二年以上、一日として
(单词翻译:双击或拖选)
 タイヤは日に干して……
 
 
 ロンドンに初めて渡ってすぐ、私は自動車を買おうと思った。
 なにしろ、もうこの二十二年以上、一日として車に乗らない日はないというほどの運転好きで、ことに公共交通が日本よりずっと不便なイギリスにいては、まさか車無しの生活というものは考えられなかったのだ。
 着くとすぐに、私はロンドン近郊の中古車屋を検分して回った。フム、すると驚いたことに、この国では中古車というものが、甚《はなは》だ高直《こうじき》である。日本だったら当然スクラップになっている筈《はず》の「走るクズ鉄」みたいなのが、結構な値段で売られている。それは一見するとアコギな商売のようだが、実はそうでない。例えば、日本で十万円で買えるようなボロ車を買ったとする。これがイギリスでは、さよう、二十五万円くらいはする。ところが、もしこのボロ車を一年間乗り回して(まず二万キロくらいも走って)それから同じ中古車屋に持っていったとする。その場合、日本ではまず買い戻してはもらえないだろう。タダで引き取ってくれれば良い方だ。ところが、イギリスの場合は、かかるポンコツをちゃーんと売値の半額くらいで引き取ってくれる。そうすると、中古車屋の方では、それにまたある程度の利幅を乗せて再販売するわけだから、なるほど中古車の価格はいつまでたっても安くならない筈である。
 したがって、ややお金に不自由していたその頃の私にとって、買い易《やす》い車はなかなか見つからなかった。
 散々苦労した挙げ句、私は近所のアーチウェイというあまり感心しない土地|柄《がら》の、あまり芳《かんば》しくない中古車屋で一台のオースチン・ミニを買うことに決めたのだった。
 コクニー訛《なま》りで調子の良い中年イギリス男(たぶんこれが主人だろう)とアラビア人らしい人相の悪い青年がやっている店だった。ミニの程度はまあまあだったが、日本円で四十万円くらいもした。虎《とら》の子の貯金をはたいて契約して、数日後に車を受け取りに中古車屋へ行くと、店のオヤジが困却した顔で出てきた。
「それが、じつは困ったことになった。昨日、車検を取りに行ったら、その途中で車軸が折れてオシャカになっちまったんだ。代りにこのトヨタはどうだ」
 そんなばかな、と思ったが、しかたがないのでボロのトヨタを買った。この言い訳が本当だったかどうか、それは分らない。
 暫くして、友人の何樫《なにがし》君にこの話をすると、彼は真顔で言った。
「林さんはそりゃ好運でしたよ」
「どうしてさ?」
 聞いてみると、かれは二十万円のミニを買って間もなく、なんと運転中に、どさっと床が抜けたというのだ。これは嘘《うそ》のようだがホントの話である。
 しかし、さすがのトヨタも氏より育ち、すっかりイギリス流で、あちこちと故障ばかりするのだった。
 まず買ってすぐプラグが四本とも駄目《だめ》になっていることが分った。早速この車を売り付けた中古車屋へ行って文句をいうと、口先ばかり調子のよいオヤジが店の奥から怪しげな三流品のプラグを出してきて、しょうがないという顔をして付け替えてくれた。
 するとまもなく、今度はクラッチがバカになった。
 それからすぐに排気管が折れて、ガクンと落っこちてしまった。
 それも直すと、次にはディストリビュータが壊れた。
 こういう度重なる貴重な経験によって、私はすっかり自動車の修理を覚え、いつも一通りの消耗部品と充分な工具を持ち歩くようになった。
 苦難と経験は人を賢くするのである。
 ところが、これも買って間もない頃《ころ》、私は重大な危険に気が付いた。タイヤである。このタイヤが、よく見ると、溝《みぞ》なんかは殆《ほとん》ど残ってなくて、しかも横ッ腹がデコボコと変に膨《ふく》れているのだ。これで高速道路などを走ると必ずや命に別状があるだろう。
 私は早速また、かの中古車屋へ文句を言いに行った。すると、今度はアラビア人の青年が出てきて、あっさり「じゃ、交換しましょう」と言った。その口調は正直そうで、彼は第一印象ほどには悪い男ではないらしかった。
 それから彼は、事務所の横で雨曝《あまざら》しになっている古タイヤの山の中から、いくらかマシなのを選んで黙々と取り替え始めた。
「オイオイ、もうちょっとマトモなのはないのかい」
 と尋ねると、彼は人懐《ひとなつ》っこい表情を浮かべて言った。
「いや、これくらい雨曝しになってるのがちょうど良いんです。僕の故郷のエジプトではね、新しいタイヤはゴムが軟弱でいけないといって、わざと一年くらい屋根の上に上げて日に曝しておきますから。そうするとゴムが硬くなってちょうど良いってね……」
 なるほど、広い世界にはそういう不思議な習慣の所もあるかもしれないが、ウーム、鰺《あじ》の開きじゃあるまいし……、私は砂漠《さばく》の灼《や》けつく陽光にじりじりとタイヤが干されている景色をふと想像したのだった。
 こうしてまた私は一つ利口になった。けれども、間もなく私は新品の(すなわち、ゴムの軟弱なる)タイヤを買って付け替えてしまったので、このエジプト流日干しタイヤの良し悪《あ》しは今に知れない。
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