盆暮は、日本では贈物の季節である。私も人並に、お世話になった方々に、毎年心ばかりの品物をお贈りするが、いつでも妻と二人で、あの方にはこれ、この方にはそれと、念入りに選んで贈るものを決めることにしている。
その品選びの基準は、まず原則として「食べ物」であること。食べ物は後に残らないので、潔《いさぎよ》い感じがするからである。
で、その食べ物で、何を贈るかということは極めて単純な原理で決める。自分で食べてみたいなぁ、うまそうだなぁ、と思うような物、ということ、これに尽きるのである。
むかし、恩師の森先生が、御健在だったころ、御中元に精力剤として大きなヤマノイモを差し上げたことがある。その時、「かの一代男|世之介《よのすけ》が女護《によご》の島に船出せんとて持参せしも、このヤマノイモなり」などとザレごとを書いてお届けしたら、先生からたちどころに手紙が来た。
「貴君より種々御研究をお申し越しにつき、私もいささか愚考せるところを申します。そもそもこのヤマノイモというものに二種あり。本草綱目《ほんぞうこうもく》に曰《いわ》く……」という調子で、真面目《まじめ》のような戯《たわむ》れのようなことが洒落《しやれ》た調子で書いてあった。私はこの手紙を読んで本当に嬉《うれ》しくなった。そうして同時に、先生が私の贈物を喜んでくださったことが行間から惻々《そくそく》として伝わって来るのだった。
しかし、世の中はままならない。私が酒を口にしないことは、このごろようやく周知のところとなって見当外れにウイスキーなんぞくれる人がいなくなったのはまことに御同慶のいたりだが、そうすると今度は、「じゃ、ハヤシは甘党だろう」と勝手に決めて、甘いものばかりくれるのは実際困ってしまう。酒を飲まないからとて、甘いものばかり喰《く》うわけではない。海の幸山の幸、日本には天然自然うまい物も多きに、そういう物をくれる人はほとんどない。
しょうがないから、私は人に贈るついでに、いつも|自分宛にも《ヽヽヽヽヽ》、何かうまそうなものを選んで贈るのである、トホホ。