蕎麦の食べ方、といっても、「通はおツユをちょっと付けて、薬味は入れずに……」とか、そういうウンチクに類したことを開陳しようというのではない。
最近、女子学生たちと一緒に蕎麦を食べると、じつに薄気味悪い感じがする。どうしてかというと、みな(これはもうまったく例外なく)黙々と下を向いて、なんだか蕎麦を一本ずつ手繰り寄せるように、チビチビ、チビチビ、音もなく食べるからである。ぐいっと箸《はし》でつまんで、一気にズスススッとすすりこむなんてことは、間違ってもしない。
「みんな、そんなふうにしずしずと食べるけれど、どうして? お母さんに、そういうふうに食べろって教わりでもしたかい?」
「そうじゃないんですけど、わたし先生みたいにズスッて音を立てるの、どうやるのか分からないんです。やってみてもうまく行かなくて、むせたりしちゃうもんですから……」
聞くとみな異口同音にそういうのである。では、熱い紅茶をそんなふうに音も立てずにしずしずと飲めるか、というと、それもうまくできないのである。きまってこう言うのだ。
「わたし、猫舌《ねこじた》なんです」
女の子だけかと思っていたら、この頃《ごろ》は男でも音無しの手繰り喰いが少なくない。カップルで蕎麦屋へ来て、幽霊のように音もなく蕎麦を食べている、とそういうのが珍しくないのだ。男のやつは、たぶん彼女に見くびられちゃならじと、女の真似《まね》をしているんだろう。
しかし、蕎麦というものは(ウドンでもラーメンでも同じであるが)さっさと食べなくては、伸びてしまってうまくない。冷たい蕎麦は温まってモサモサになり、ラーメンはツユを吸って真っ黒になってしまうまで、のろのろグズグズ食べているのは、これは作った人に対して失礼というものだ。それだから、彼女たちの様子を見ていると、ちっとも美味《おい》しそうに食べない。「イヤイヤ食べている」という感じである。結局、あんなにしかめっ面《つら》してモタモタ食べているってのは、味なんか分からないってことだよな、と私は心のなかで罵《ののし》りながら、「君はお上品な食べ方をするんだねぇ」と言ってみる。けれども、それが皮肉だということに気の付く女の子はこれまた皆無である。あぁ!