何度でもいうようだが、私は非常に嫉妬深い女性である。嫉妬深いということは、同時に独占欲が強いということに他ならない。
だからめったにないことであるが、運よく恋愛生活に入ると、疑心暗鬼、しつこく電話をしたり、まわりの情報を集めたりするのがいつものパターンである。
この情報収集というのが、職業柄私はすごくうまい。敵のつい最近までつきあっていた女の名前を知るぐらい朝飯前だ。
まず彼の近くにいる人間をリストアップする。「近くまで来たから」という名目でお茶に誘い出すことぐらいわけない。
「このあいだAさん(オトコの名)に会っちゃった」
とさりげなく切り出す。
「ああ、あの人……」
「なかなか感じのいい男じゃん。でもちょっとわがままそうね」
とまずは軽い悪口でカモフラージュ。
「でもあれはなかなかワルよおー、私のみたところ、相当遊んでるわよ、きっと」と切り出す。
私のゴシップ好きを知っている相手は、お茶をごちそうしてもらうお礼がわりに、ちょっとおもしろそうなネタをいくつか提供してくれるはずだ。
「そうかもねー。あ、そういえば最近まであそこのナントカちゃんとつきあってたって聞いたわ」
「ふうーん、そのナントカちゃんってどんなコ?」
「私もよく知らないけどさ、Aさんにぞっこん惚れてたって噂よ。一時はかなりいい線までいってたんじゃない」
女心というのは不思議なもので、相手の男があまりモテすぎても困るし、モテなくても困る。その微妙なバランスのところにいてほしいと願うのは誰しも同じであろう。
さて、こうして手にいれたナントカちゃんという名は、いったいどういう時に使えばいいのだろうか。私の場合、男に甘える極みに起こる、例の痴話ゲンカの最中ですな。
「そうよ、私、ナントカちゃんみたいに素直じゃないもん」
この時のギョッとした顔を見るのが大好き。
「違うよ、あれはさ、仕事で何回かあっただけで関係ないよ」
私が男にだまされる女の心理がつくづくわかるのもこんな時だ。大の男が自分のために必死で嘘《うそ》をつくのってたまらなくいとおしい。
「でもずい分仲がおよろしかったって噂よ。ナントカちゃんってすごい美人なんですって」
とダメ押し。
「そんなことないよ。ものすごく気の強い女でさ、オレそんな気持ちになったことないよ」
しかし、他の女の悪口をいわせてまで愛されている確信を得ようとする、この女というものの貪欲《どんよく》さよ。本当に罪深いものだと思います。合掌。
しかし確信だとかなんとかいったって、これを本当に知りたかったのかという確信は私にはない。知りたくて聞いたのではなく、聞きたくて聞いた、といった方が正確だろう。いってみれば前戯に近いものなのだ。
よく「男の気持ちがわからない」と女たちは深刻そうにするけれど、あれは嘘ですね。あれだけ恋にかけては悪賢くて敏感な女たちがわからないはずはないのだ。ましてや、いっしょに�寝た�ことが一度でもあるのなら、その答えはとうに出てるはずである。
いい答えが出た女は、それを甘い飴《あめ》みたいに何度もしゃぶりたいんだし、悪い答えが出た女は、他人からあきらめるな、といってもらいたいばかりに女友だちに真夜中に電話することになる。
本当に�寝て�しまえばすべてがあきらかになる。知りたかったことはすべてわかってくるはずだ。
いっとくけどこの�寝る�というのは、その最中のことではないよ。愛情が多い少ないで、その行為自体にはほとんど差がないもの。たいていの男だったら、「愛してるよ」とか、「好きだよ」のひと言ぐらいは本能的にいうでしょ、だからそんなに喜ぶことはない。
大きな差がつくのは、コトが終ってからだ。後悔というでっかい焼印をおされて、どてっとベッドに横たわる肉塊となっているのか、いとおしさが倍加した恋人となっているのか、それはその時、男がなにをしたかでわかりますね。
毛布をひっかぶり、背を向けて寝てしまう男などというのは問題外だが、他の方たちというのは、いったいどんな待遇を得ているのであろうか。
「そうねぇー、たいてい煙草吸うわねぇ」
友人のU子の彼は、彼女が煙草を吸うのを非常に嫌がるのだが、この時だけはゴホウビに一本くれて、火までつけてくれるそうである。
あとは髪の毛をなでてもらう。腕枕をしてもらうなどというオーソドックスな答えの中で、ちょっと変わったのがある。髪の毛の長い友人の彼は、横たわったまま手間ひまかけて三つ編みを編むんだそうである。
ロリコンかつ平安調っぽくてなかなかいい。
私のとぼしいいくつかの経験の中からいわせていただくと、次の日の朝食をキチンといっしょに食べていく男も、信用していいような気がする。
まあ不倫の恋をしていらっしゃる方々は別でしょうけど。
ラブホテルの近くの喫茶店で、ちょっとみじめさを共有しながら、モーニングサービスのゆで玉子を割るような男だったら、間違いなくあなたに惚れているといってもいい。男が女の部屋に泊まった場合、朝ごはんをここで食べて帰るというのは、彼女の存在をその日いちにち、しょって帰るというのに等しいのだ。
なぜなら、この時の朝食というのは、女の思いいれの固まりみたいなもんであって、いまやちゃんとしたホテルでしか食べられない、純和風定食みたいなものが突然出現して男を驚かせる。
この時の男の言動によおく注意しよう。
「キミって本当に家庭的なんだね」
というのは、いかにも古典的なほめ言葉だが、自分のために手間をかけさせたことへの礼心からであって、その誠意は認めるべきである。
「これからどこへ出んの。じゃ銀座までいっしょに行こうよ」
と提案してくる男だったら、ちょっとウヌボレてもいいようだ。
男が部屋を出ていったあとの、気だるい遅い午前、食器を水につけたままでレコードなんて聞いている。すると電話が鳴る。とる前から誰からかわかっている。
「あ、僕だけどいま会社。なにしてるのかと思ってさ」
「いまお茶わん洗ってたの(こういうとき女は、生活のにおいをやたら漂わせたがる)」
「いいわすれたけど、いろいろサンキュー」
「いーえ」
「今夜どうすんの」
「まだきめてなぁい」
「じゃまたTELするよ。じゃーね」
こんなのが私の理想的な後朝《きぬぎぬ》の別れですね。
ライターや万年筆の会社と同じく、男の誠意つうのもアフターケアの首尾で見せていただきましょう。
売りつけにきた時の口説きなんて、ほーんとにあてにはならないからね。