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ルンルンを買っておうちに帰ろう12

时间: 2019-07-30    进入日语论坛
核心提示:美少年は公共のものです わーい、わーい、今日はとってもいい日でした。 BFのアキ君がフグを食べにつれてってくれたんです。
(单词翻译:双击或拖选)
 美少年は公共のものです
 
 わーい、わーい、今日はとってもいい日でした。
 BFのアキ君がフグを食べにつれてってくれたんです。おまけにいっしょに行ったのが誰だと思います。ハンサムなデザイナーとして、業界にその名が知れわたっているツノイさんです。写真をお見せできないのが残念ですが、いずれアヤメかカキツバタ。ふたりとも水もしたたるようないい男(ハンサムをほめると、つい言葉が古典的になる)。仲居さんが、
「今日はなんでこんなに素敵な方がいっぺんにいらしたんですかァ」
 と何度も私に聞いたほどである。
 私なんか、この佳き日をなんとかかたちに残そうと思ったから、
「取材で今日偶然もってたの」
 なんていいながら、カメラでバシバシ写真を撮っちゃった。
 ところで私は世間でいわれているほど、�面食い�では絶対にない。自分でも身のほどというものを知っているから、実用はブ男が好きである。ブ男といっても、私の好みの方向に崩れていてくれないと困るので、まあひと言でいえば硬質のブ男が私は好きである。同じブ男でも、ぶよぶよ太って、童顔でと、私を男にしたようなタイプは全身全霊でうけつけないのよね。
 まあ実用は実用でおいとくとして、私は美少年たち、もしくは美青年たちと遊ぶのが大好き。いっしょに歩くと、女たちの視線がうるさくて困る——といったレベルは、いつも三、四人手元に置いておきたいのだ。
 中でも白眉《はくび》といっていいのはオオタケ君である。ホテルマンという職業柄、めったに会えないのだが、いっしょに喫茶店に入ると、それまでギャーギャーわめいていた女どもがピタッと沈黙するほどものすごい容貌なのである。サービス業に従事している男独得の清潔感があって、きちんとそり上げたこめかみのあたりがふんわり青っぽい。二重の大きな目の男というのは、どうしても信用できない感じがあるが、彼のはいい感じに切れ長になっているので、目の美しさだけが強く印象に残るのだ。
 私より二つ年下だからもう二十六歳か。知りあった頃は文字どおりの美少年だった彼も、髭《ひげ》が濃くなっていくように男が表面ににじみでてくるようになった。ちょうどヴィスコンティ時代のアラン・ドロンみたいな感じ。私といえば、もう小森のおばちゃまみたいに目尻《めじり》を下げて、
「オオタケ君ってホントにいい男ねぇー」
 と恥ずかしげもなく彼を見つめるのだ。
 私のまわりの連中は、私がオオタケ君に「手をつけた」と思っているらしいが、そんなことは全くない。彼の風貌にふさわしく清く美しい関係である。
「ねぇ私考えたんだけどさー、あなたちょっと路線変えてみたら」
 ある時友人にいわれた。
「あなたいつでも年上のちょっとワル男が好きで、いつも泣かされてきたわよねぇ。もうこのへんで年下の美少年に切りかえてみたら。まああなたは業界の大屋政子といわれてるぐらいヤリテだから、このへんで女パトロンとして君臨するのもいいんじゃない」
 冗談じゃない。美少年というのはたまに会うからいいのであって、日がな一日顔を会わせていたら、私なんかきっと気がめいっちゃうわね。
 あまり美しすぎる男というのは、女を悲しくさせるのである。
 オオタケ君も、だから結婚できないんだ。彼は私からのよび出しにいつもすんなり来てくれるところをみると、たぶん恋人もいないんじゃないかな。そりゃーそうです。オオタケ君と目をふせることなく向かいあう女なんて、そう何人もいるもんじゃない。
 だからそんなはずはないと思いながらも、私は長い間、オオタケ君が童貞だときめてかかっていたところがある。彼のような美しい男は、女なんか愛せないはずだと思っていたのだ。
 実をいうと、私は彼のことをホモだと思うこともあった。それはいかにも神秘的で悲劇的で、彼にはふさわしい道のように思われるのだ。
「かわいそうなオオタケ君」と、私は彼に同情した。
 私はきっとこれからハイミスの運命をたどるのであろう。そしてオオタケ君も背徳の道をひとり静かに歩むのだ。それでもいい、肉体とか愛情だけが、男女の間のすべてじゃないんだ。私は死ぬまでオオタケ君と不思議な美しい友情を結ぶのだ。
 そこまでひとりで思いつめると、ふいに美しい光景がうかびあがってきたのだ。桜の花が散っている修道院の庭。そこに私とオオタケ君が立っている。老いているといっても、彼は輝くように美しい。
 そして私もこぎれいな老婦人で、彼のかたわらに寄りそっている。二人の間には恩讐《おんしゆう》を超えた美しい時間が、まるで夢のように横たわっているのだ。
 なんとこれは、「シラノ・ド・ベルジュラック」の世界ではないか。私はすごく嬉しくなってさっそくオオタケ君に電話したのだ。
「はぁ、僕と林さんが養老院の庭に立っていたんですか。あ、養老院じゃなくて修道院……。そんなこともあり得るかもしれませんね。僕は一生結婚しないつもりですから」
 私は男のこのひと言が、ぞくぞくするぐらい好きなの。
「あーら、どうして。オオタケ君みたいに素敵な人がもったいないじゃない」
「僕は女性を幸せにする自信がないんです」
 もおー、私は最高にはしゃいでしまった。オオタケ君こそ美少年の鑑《かがみ》である。喜びで胸がいっぱいになった私は、明日の夜いっしょに飲みに行こうと彼を誘ったのだ。
 その際、私は魔がさしたとしかいいようがないのだが、友人を誘ってしまった。たぶん私とともにこれから人生を歩むオオタケ君を自慢したかったゆえの愚かな行為であった。
「ひゃあー、いい男!」
 と、最初に会った時の友人のはしゃぎぶりが多少気になったが、まあしばらくは三人でうまくいっていたのだ。
「ところでさー、オオタケ君」
 酔いがかなりまわったのか、トロンとした目つきで彼女が、オオタケ君のコップにビールをついだ。あー、オオタケ君なんてなれなれしい、と腹たったのもつかのま、
「あなた初体験いつ?」
 ものすごく大胆な質問をしたのだ。あ——、私なんか五年以上もつきあってしたことないこと、このヒト、最初の日にしてる。私の神聖なオオタケ君に、そんなことやめてほしい、と思いつつ、本当はこれは私がずうっと知りたかったことだということに気づいた。
「いやー、そんなこと、ハハ」
 意外なことに、彼はそんなにイヤそうな顔をしてないのだ。それどころか、
「浪人の時ですよ」
 とあっさりいう。
「相手は、ね、どんなコ?」
 それには私もすごく興味があったので、私はもう彼女をつつくのをやめた。
「セーター買いに行った丸井の女の子ですよ。サイズがなかったんで電話番号おしえといたら、次の日に電話がありましてねぇ……」
 私がくやしさで胸がはりさけそうになったのを想像してほしい。丸井に勤めるぶんざいで、オオタケ君の最初の女になったなんて絶対に許せない。オオタケ君もオオタケ君だ。駅のそばの丸井なんて手近なところで間にあわせて。せめて三越とか高島屋にできなかったのだろうか。
 他人の初体験に私がとやかく口をはさむ資格はないのだが、オオタケ君の相手は、美貌の人妻とか、高原の別荘の少女とかであってほしかった。
 高原といえば、国立公園の植物や樹をかってにとったり傷つけたりすると法律で罰せられるんでしょ。
 人間の独占欲というのは、みなの楽しみをうばうものなんでしょ。
 ならばオオタケ君みたいな美少年をひとりじめしようなんて、罰せられてもいいぐらいいけない行為だと思う。
 私の老後の夢と希望が、またひとつ消えてしまったではないか。
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