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ルンルンを買っておうちに帰ろう26

时间: 2019-07-30    进入日语论坛
核心提示:楽しゅうて、あとで悲しきバーゲンかな 友人のことはなるべく悪くいいたくないのだが、私の女友だちというのはかなり性格がよく
(单词翻译:双击或拖选)
 楽しゅうて、あとで悲しきバーゲンかな
 
 友人のことはなるべく悪くいいたくないのだが、私の女友だちというのはかなり性格がよくないのが多い。おまけに嫉妬《しつと》深いので、群を抜いてお金持ちの私は、いろいろと苦労がたえないのだ。
 中でもスタイリストのエミちゃんのはかなり習慣的なもので、私が買った洋服がバーゲンでいくらになっていたか必ずといっていいくらい電話で報告してくるのである。
「あのさ、あんたがこのあいだ買ったワイズのスーツ、あれバーゲンで一万五千円で出てたよ。あれ確かプロパーで五万ぐらいだったよね。わー、もったいない」
 私は受話器を握りしめ、できるだけ不快な声を出さないように努める。
「いいのよ、冬中さんざん着たんだから、もうモトはとれてるわよ」
「そうね、どこへでもあればっかり着てったもんね」
「失礼ね、私ほかにもいっぱい服もってるわよ」
「そうおー、みんないってるわよ。服買った、買ったといいながらいつも同じもの着てるって……」
 このへんで私の忍耐は限界に達して受話器を落としてしまうのだが、その日はちょっと考え込んでしまった。
 いつも私は裕福なのにまかせて、高級洋服を�はしり�の時に買いすぎていたのではないだろうか。あと二か月ほどがまんするだけで、ワイズだろうと、イッセイだろうと、半額、いやそれ以下になるという。だからバーゲンの日になると庶民の女共が目の色を変えて走りまわるという。私も庶民にまじって、バーゲンとやらに行ってもいいような気がしてきた。
「ねえ、エミちゃん。いまバーゲンやってる」
「うーん、いまはシーズンオフだねぇ。七月か八月まで待ってごらん。すぐ安くなるから」
「ね、ね、ホントにそんなに安い」
「成金のあんたが大好きな、イッセイとかボールも信じられないぐらい安いわよ」
 それで素直な私は、今年の初夏から夏にかけて、ぐっと歯をくいしばってがまんした。気に入ったものを見つけても「バーゲン、バーゲン」と呪文《じゆもん》のようにとなえ、ものすごい形相をしていたらしく、ブティックの女の子がマネキンの陰に隠れたりしたのもこの頃だ。
 そしてやがて真夏がやってきた。街にはセールとかソルドとかいう文字が目立つようになったのだが、まだ私はがまんした。デパートやファッションビルのバーゲンでお茶をにごすのは�通�ではないとエミちゃんはいった。こっちの方はもちろん私もたくさん経験があるのだが、そんなに安いとは思わなかったもんね。いい品物もたいていは売り切れている。
 バーゲンの真髄はなんといっても、メーカーの決算にあるとエミちゃんはいう。いつもはお高くとまっているデザイナーブランドの方々もやはりまとまった現金がほしい。それで恥も外聞もなく大放出するらしい。ふだんはガラスのウインドの中に一点か二点、気どってディスプレイされる洋服が、倉庫からドバーッと出されて品台の上に山積みされる。こうなりゃイッセイもコム・デ・ギャルソンもない。ばく大な布の塊があるのみである。エミちゃんはスタイリストだから、貸し出しの時にさんざんえばった店員の顔を思いうかべて、ものすごくサディスティックな快感にひたることさえあるという。
 これを聞いて私はものすごく心を動かされた。
 高級ブティックの女の子たちには、私もいろいろ恨みがござる。彼女たちは自分たちが商標そのものみたいな意識におちいっているような気がするのだ。あの子たちが店に立っているのは、品物を売るというより、自分たちの店のイメージに合わないダサイ客が入ってこないように見張っているために違いない。このあいだもキラー通りの某有名パンツショップで、いかにも竹下通りから流れてきたっぽい少女たちに、店員がものすごく冷たい応対しているのを見ちゃったもんね。そのあと私に、
「お客さん、もうこれより上のサイズないですよー」
 とか大声でいってさ。モデルだけが客だったら、君たちの商売成りたってかないでしょうに。くやしい。
 エミちゃんもフンガイしてたけど、こういうのに限って、有名スタイリストとか、「アンアン」のおネエちゃんたちとはものすごい仲よしごっこ。自分たち自身も貸し出しされるのも大好きで、
「さすが○○ブティックにお勤めのヒネ子さん、オール満点の着こなしです」
 なんていう企画で、グラビアを飾っちゃうのよね。
 まああんまり悪口いうと、ひがんでるように思われるとしゃくだからこのへんにしときましょう。
 で、とにかく私はバーゲンに行くことにした。素直なばかりではなく、非常にまじめな私は、その準備もおこたりなかった。エミちゃんや雑誌からの情報をモトに、きちんとスケジュールをたてたのだ。
 土曜日は、朝十一時からBIGIグループのバーゲンに行き、午後からはイッセイの社内セール。
 日曜日は、ワイズとスクープのバーゲン。
 お金も銀行からおろして十万円用意した。足りなかったら、いっしょに行くはずのフミコを脅かして借りちゃおーっと。
 予備知識とお金はぬかりなかった。しかし、私は自分自身の性格というものを把握していなかった。私は�根性�という二文字が先天的に皆無の人間なのである。そしてこれこそがバーゲンの勝敗を分けるものだということに、まだ私は気づいてなかった。
 土曜日、私はすっかり寝坊をしてしまった。起きたら十時半ではないか。今日は私ひとりで行くはずのバーゲンの初日なのに、こうしてはいられない。私は歯だけ磨いてタクシーをとばした。バーゲンにタクシーで乗りつけるというのが、私の成金と非難されるゆえんなのだが、この際仕方ない。
 やれやれ十一時の開店には間に合うと喜んだのもつかの間、会場のベルコモンズは行列がとり囲んでいる。青山は黒山の人だかり。
「なんだ、なんだ、たのきんのコンサートの前売りか」
 などといっていた私は、それがこのバーゲンに来た人たちだとわかった時、ぞっとするぐらいの恐怖感をおぼえた。そりゃ、そうでしょ。「おしゃれをしたい」という欲望が何百とひとつの場所に集まって行列をつくっているのである。私はひき返そうと思ったが、さっきのタクシー代が頭にちらついて、おずおずと行列の後ろについたのだ。
「はい、整理券配りますからね、並んで、並んで」
 男がいった。
「は〜い、夕方五時からの整理券ですよ」
 驚くよりも悲しくなった。私はやはりここに来るべき人間ではなかったのだ。倍の金額をとられてもいい。やはりブティックでこころ優雅に�はしり�の一着を買うように運命づけられた人間なのだ。ここに来たのは間違っていたと思い悩みながら、私はいつのまにかものすごい早足になって、イッセイのバーゲンの会場へと向かっていた。ここの商品は元値からしてかなり高価なものが多いので、さすがに行列はない。けっこうおばさんたちが多いのが特徴だ。あれやこれやあさっているうちに、私は猛烈な怒りがこみあげてきた。見おぼえがある商品がいっぱいあるのだ。
 あ、このスカートは、私が五月に一万円で買ったやつ。な、なんと三千円になっている。おまけにものすごいブスのダサイ女が、手にとって買おうとしているのだ。
 私の立場はどうなるのだ。もし路上でこの子と同じスカートを着てすれ違ったら、どうなるのだ。一万円で買った人と、三千円で買った人が全く同じに見えちゃうなんて、こんな不条理なことがあってよいものだろうか。許せない。
 しばらく茫然《ぼうぜん》と立っていた私だが、やがて気をとり直した。
 よし三宅一生がその気なら、私もうけて立とうじゃないか、といった感じ。
 敵に最もダメージをあたえる商品、元の値段がうんと高いやつを買ってやれ、という気になってきたのだ。それで似合う似合わないは二の次にして、そのバーゲン会場の中では、ずばぬけて高いワンピースを買った。それで私の心はやっと平静をとりもどしたのだ。
 しかしそのおだやかさは長くつづかなかったのだ。
 バーゲン最終日の日曜日、私とフミコはひそかなファッションショーを開き、お互いの成果を披露しあった。
 そこで私はまたもや胸がムカムカしはじめた。
 同じバーゲンに行ったのに、フミコの方がずっといいものをいっぱいに見つけてきたのだ。おまけにスタイルのいい彼女が着ると、すごくよく似合う。
「そのブラウスいいわね。ねえ、これととりかえっこしようよ。あ、なんなら私買ってもいいわよ」
「いやよ」
 彼女はいつになく冷たくいった。
 例のイッセイのワンピースは、サイズが合わなくてファスナーが上がらなかった。これと同じ条件のものを、あと三着私は買ってしまったのだ。
 嫉妬と後悔と疲れで、私はその晩よく眠れなかった。
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