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ルンルンを買っておうちに帰ろう30

时间: 2019-07-30    进入日语论坛
核心提示:自然より人間の方がはるかにおもしろいのだ 毎年夏になると、南の島へ行くのが最近の私のならわしになっている。 などと書くと
(单词翻译:双击或拖选)
 自然より人間の方がはるかにおもしろいのだ
 
 毎年夏になると、南の島へ行くのが最近の私のならわしになっている。
 などと書くと、いっている本人も照れてしまうほど優雅な感じなのだが、すべて原因はこの豊満すぎる体型にある。
 夏は誰だって大胆になりたい。
 私だってなりたい。
 もうちょっと若くて、体型に自信があるならば、ビキニで湘南《しようなん》や新島《にいじま》の浜べに寝そべって、若い男の子たちにチヤホヤされたい。しかしいまの私ではそれは果せぬ夢であろう。ああいった人の出入りの多い海へ行くには、私も恥というものを知りすぎている。
 よしんばワンピース型水着でつつましく装ったとしても、愛児を海で遊ばせるPTAといった風情になり、誰も声なんかかけてくれないのは必須《ひつす》であろう。
 ビキニは着たいが、他人にめいわくをかけたくない。この私の美意識が、わざわざ飛行機に乗って海水浴に行かせるのである。
 大胆なイタリア製のビキニで昼間は波とたわむれ、夜はドレスに着がえて、ホテルのバーへトロピカル・ドリンクを飲みに行く。まあ小金はあって婚期を逃した女性の、理想的な休暇のすごし方といっていいだろう。
 いつもいっしょに行く女性も、理想的な相棒だった。女がふたりで旅をする時、楽しくなるかならないかというのは、実はパートナーの選択にかかっている。ふたりのバランスがとれていないと非常に悲惨な結果になるのは目に見えている。食べものや未知の土地に対する好奇心はほぼ同じでないと困るし、常識や知性も私の足りない分はぜひほしい。それにこれはあまり大きな声でいえないほど大切なことなのだが、片っぽが極端に男好きするタイプだったり、ものすごい美人だったりしてもいろいろさしさわりがあるのだ。
 ヒロミさんはもちろん美人は美人だけれど、そういうことはあんまり考えたことないワ、といったような頭のよさがある。おまけに売れっ子の作詞家である彼女は、ふだんうまいものを食べつけてる人種で、ワインなんかの知識もすごい。私なんか足元にもおよばないインテリで、英語とフランス語が喋《しやべ》れる。そしてここが大好きなところだが、私よりいくつか年上のせいか「あの男の人、マリちゃんに譲るわ」といったやさしさに満ちあふれている。
 いっしょに旅するのに、これ以上の人物があるだろうか。
 ヒロミさんとは、フィリピンのセブ島にいっしょに行き、次の年にはまたふたりでグアムでバカンスをすごした。
 いっしょに何日かいて気づいたのだが、私たちのいちばん共通する性格というのは、食いしん坊とか、買い物好きというのではなく、そのプライドの高さにあるということだった。
 つまり「ボーナスためてやっと来た、そこらのOLといっしょにされたくないわ」
 という意識で旅行添乗員がいちばん手をやくとかいうアレである。
 だからこそ我々は全くフリータイプのツアーを選んだのだし、こうるさい若い女の子のいない時期というのも十分考慮に入れていた。はしゃぎまくる女というのは、まわりの楽しさを吸いとっていくものなんだもの、ホント。
 グアムの海岸は時期はずれということもあって、実にひっそりとしていた。私とヒロミさんはビールを飲みながら、日がな日光浴をしていた。
「忙しい日々を忘れるために、じっくりと自然とつきあう」
 というのが、旅に出る前の私たちふたりのコンセプトだったから、島見物をしたり、ディスコに行って、フィリピンバンドの男たちに流し目をくれるといったようなスケジュールは、私たちの頭の中にはなかったのである。
 しかしいかにも旅なれたふうの、大人の魅力をたたえたこのふたりを、男性がほっとくはずはなかった!
 私たちは商用でグアムへ来た貿易関係のナイスミドル、コンチネンタルエアラインの代理店の日本人男性から、やつぎばやにお食事に誘われたのだ。貿易関係はヒロミさん、代理店関係は私の成果である。
 昼と夜と、おいしいものをいっぱい食べさせてくれた代理店の男は、本当にめっけもんで、おかげで私たちふたりのみやげの量はかなり違ったはずである。
 浜べに若い女の子がいなかったのと、私のビキニのブラジャーがほんの偶然からはずれたことが、いま思えばかなり重要な要素になっていた。
 しかし、なんといっても我々は非常にプライドの高い職業婦人たちであるから、彼らとも厳しく一線をひいていた。お食事はおいしくいただくが、その後街に出てバーで一杯、という誘いは断わった。もちろん東京の住所なんかも気やすく教えたりしませんよ。日本へ帰ったらお腹がふくれちゃう女の子たちとは違うんだもん。
 そしてなんだかんだしているうちに、最後の夜となった。その日は誰とも食事の約束をしてなかったので、さすがの私たちも、ちょっと所在なくなった。グアムでの最後の夜というのもやや感傷っぽい気分となって、私たちはホテルのディスコへ行くことにしたのだ。
 これはかなり意外な決断である。
 なぜなら私たちは、外国へ来て、女の子たちだけでディスコへ行く人種というのをかなりケーベツしていたから。
「日本での欲求不満が、外国へ来て爆発する」
 というのが、私と彼女の持論であった。
「だから日本の女って、外国の男たちになめられるのよ」
 ヨーロッパに何度か旅してるヒロミさんがいって、ふたりでしばらく日本の女の子たちの貞操のなさを嘆きあったのだ。
 でまあ、ひと晩ぐらいだったらそういう女の子たちの真似《まね》をしてもいいのではないかという結論に落ちつき、私たちは化粧をはじめた。私はTシャツの下に、グアムのデパートで買った総ラメのチューブトップまで着てしまったのだ。
 タクシーで行ったホテルのディスコは全く期待はずれだったといっていい。客がほとんどいずに、深閑とした店の中で、ぽつりぽつりといる女たちは、明らかにプロの女性たちだ。入口でひきかえそうとしている私たちに、ダミ声の大阪弁が肩をたたいた。
「やめとき、やめとき、ここはようない。わてがいいディスコ知っとるで、そこへ行こうや」
 振りかえった私たちは、思わず叫び声をあげそうになった。スッポンの化け物のような老人がそこに立っていたのだ。ぬめぬめした感じのスキンヘッド。ジーンズにTシャツというものすごい若づくりだが、しわだらけの顔が、かなりの年齢だということを暗やみの中でもおしえていた。
「な、いこ、いこ」
 あまりの押しつけがましさに、私たちは吹きだした。なんつうか、グアムに来てから無意識のうちに張りめぐらせていた、男への警戒心が、ガバッという勢いではがれたのである。
 彼は私たちの笑い顔をOKと見てとるや、
「じゃ、着がえしてくるさかい、コーヒーショップで待っててや」
 と無邪気に走り出していた。
「キャーッ、おもしろいオジさん」
「でも、あーいうのが案外スケベなんだから」
「でもあの年だから、どこへ連れていこうと安全よ——」
 などと話し合っているところへ、彼が意気ようようともどってきた。彼をひと目見て、私たちは思わずコーヒー茶わんを落としそうになった。ヒロミさんなど、
「ギャーッ」
 と悲鳴をあげたぐらいだ。
 黒のシルクのパフスリーブのシャツ。下は、銀ラメのパンタロン。どうみたってさっきのディスコに出演している、フィリピンバンドのおにいちゃんだ。
「マリちゃんの、あのラメのチューブトップといい勝負じゃない」
 やっと気をとりなおしたヒロミさんが、そっとささやいた。
 ディスコに行く車の中で、その正体不明の老人は、自分が七十五歳であること、毎月一度はグアムに来ていること。息子に事業を譲った六十歳の時から、ひたすら遊ぶことを身上にしていることなどを語った。
「わてはグアムが大好きやねん。グアムへ来たら、毎朝五時半に起きて、オートバイぶっとばしたり、ウインドサーフィンするんや。昨日は十五歳のここのハイスクールの女の子、ひっかけてな、夜明けまでディスコ行ったんや。わてはグアムのディスコ、ちょっとした顔やでー」
 笑いじょうごのヒロミさんなどは、車のシートに顔をうずめて、肩をひきつかせている。私はシビアな性格だから、ハンドバッグの中のドルを計算していた。われながらイヤなタチだと思うけれど、こういう大きなことをいう老人にかぎって、案外「しわい」のだ。もしかしたら私たちを誘ったのも、ディスコの入場料ほしさからかもしれない。貿易関係と代理店関係のおかげでドルはかなりあまっている。今夜ひと晩ぐらい、この老人をたっぷり遊ばせてあげるぐらいはできそうだと思っていた。
 ところが意外なことに、その老人はディスコの従業員に親しげにあいさつすると、遠慮する私たちを押しとどめて、三人分をさらっと払ってくれたのだ。「ええって、女を楽しませるのは、男のつとめやんか」
「さあ、行くでー」
 彼はフロアの真ん中に立つと、ミラーボールの光を指さした。例のジョン・トラボルタのポーズである。
「アイ・アム・ミスター・ピップマン!」
 今度は客たちが唖然《あぜん》とする番だった。そういえばいま気づいたのだが、彼の風貌《ふうぼう》は、あのピップエレキバンの「会長」にそっくりだ。
 彼のステップはうまいとはいえなかったが、老人がいたずらに踊っている、といった感じからほどとおい慣れたものだった。腰をやたら前後に振るかなり下品なものだ。
 客は日本人観光客がほとんどだったが、彼の毒気にあてられて、ひとり、ふたりとフロアを去り、見物の方にまわっていったらしい。こうなると、早めに彼に慣れていた私たちに恐いものはなにもない。気がつくと広いフロアで踊っているのは、私とミスター・ピップマンのふたりだけだ。私はTシャツを脱ぎすてて、例のあの真紅のラメのチューブトップになった。客席からざわめきが上った。
 こうなったらこのおじいさんと、徹底的に悪ノリして、このフロアで心中してもいいような気にさえなったのだ。
 ふたりで最後にはチークまでして、踊りまくった。
「最高やで、あんた。わては世界中旅してぎょうさんの女の子に会《お》うたけど、あんたみたいなコ初めてや」
 老人は何度も「おおきに」と私にいった。
「あんた、心もからだも絶対に外人向きや。日本なんかいたらつまらん。外国へ行きなはれ、きっともてるでー」
 この言葉を本気にして、私は帰国後リンガフォンなど買ったりするのだが、それはさておいて、この老人は最後まで名前を名のらなかった。
「そん時楽しければいいやんか。わては絶対に名前いったり、聞いたりせえへん」
 けれども最後にこういった。
「あんたらだけに教えとこ。ピップエレキバンの会長、あれはわての弟や」
 帰りの飛行機の中でも、私たちはずっとクスクス笑っていた。
 都会のわずらわしい人間関係としばらく別れをつげて、私たちは自然とのみランデブーするはずだった。
 ところが、ヤシの実も、青い海もなにひとつ憶えていないのだ。思い出すのは、ただ、ただ、あのミスター・ピップマンの銀色のラメのパンタロンだけだったのである。
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