買い物好きの私といえども、シーズンごとにお洋服をぜーんぶ新しくするなどということはあり得ない。昨年のものを取り出して、どうやったら今年っぽくなるか、あれこれ思案するわけだ。
去年の秋、偶然のこととはいえ茶色のベロアのジャケットを買った。ところがそれは今年の必須《ひつす》アイテムである。これまた偶然であるが、パリのプラダで、パープルのニットも買ってある。言うまでもなく流行色である。こういう風に、買ってあるものがどんぴしゃりと決まると苦労はないのであるが、頭をひねるのが、一年という歳月によって何とはなくみすぼらしくなってしまうものたちですね。
ぶっといヒールのミュウミュウの靴は、果たして生き残れるのであろうか。ひと頃、ビタミンカラーとかいって持てはやされた鮮やかな色は……?
まあ、たいていの人がそういうことをするであろうが、私は鏡の前でコーディネイトごっこをしてみる。私はうんと昔に、四角い業務用の鏡を買って、十数年以上愛用しているのだ。この大きな鏡だと、上から下までちゃんと映る。が、まだ油断はならない。今度は玄関へ行き、靴を履き、壁にはめ込まれた鏡で最後のチェックをする……。
とここまで書き、我ながら恥ずかしくなってしまうではないか。努力している割には、私のコーディネイトはいまひとつ決まらない。まわりのおしゃれな人とか、ファッショナブルな人たちと比べてみると、アカ抜けてないのは歴然としている。これはひとえに、私のだらしない性格によるところが大きい。
「そうだ、このあいだ買った茶色のブラウスと合わせよう」
と思っても、クリーニングに出していないことがある。それよりも問題なのは、私の体重の増減の激しさであろう。私はちょっとダイエットの手をゆるめると、すぐに五、六キロ太ってしまう。
つい先日のこと、原稿を取りに来たテツオが、私を見て珍しく誉めてくれた。
「おっ、ノータックのパンツが決まってるじゃん」
その時私は、お腹のへんにちゃんとタックが入っている三年前の古いパンツをはいていた。が、どうも左右にひっ張られてそれが消えていたらしい。
「すげえ体型……。古いパンツも最新のやつに変えるんだから」
とテツオは感心したり、驚いたりしていた。
ま、こんなことは自慢にならないのであるが、私もそれなりに頭をひねり、何とか細くしようとウエストもひねっているわけだ。が、人には生まれついてのセンスというものがある。中でも天才的なおしゃれなセンスを持っているのが、スタイリストという職業の人たちだ。
ほんのちょっとの差し色の工夫、コーディネイトの妙、流行のつかみ方というのは、プロならではであろう。
私は仕事柄、撮影される機会が多い。そんな時よく、
「スタイリストをつけましょうか」
と聞かれるのであるが、私はいつもこう答える。
「芸能人じゃありませんから、私は私の服を着てきます。センスが悪いなら悪いで、それは私の個性ですから」
ただし、アンアンの撮影は別。なぜならテツオが、私のコーディネイトを許さないからである。が、よく私のことを知っているスタイリストの平澤さんが、私の手持ちの服や、私のいきつけのブランド、ダナ・キャランから選んでくれているので、イメージはいつもの私とそう変わっていないはずだ。
さて、十年前ぐらいまで、テレビに出ているタレントさんの洋服は今ほどよくなかった。昔の聖子や百恵さんのドレス、あるいはバラエティ番組に出てくる人たちのワンピースなどを見よ。当時はほとんどスタイリストがついていなかったはずだ。
それにひきかえ、この頃の若いタレントさんはすごい。ついこのあいだ、パリコレやミラノコレクションで発表されたものをすぐに身につけている。プラダやドルガバの最新のものを着て、番組製作発表会や新曲発表会に出てくる。それを上から下まで雑誌社が撮影するから、我々はトレンドがよくわかる仕組みになっている。
が、あきらかにスタイリストさんが上から下まで用意したなあ、と思われる時もとても多い。ご本人が流行の高価なものを着こなせず、ぎくしゃくした表情なのだ。それよりも目につくのは靴だ。若いタレントさんの足元に注目して欲しい。八十パーセントの確率で、サイズが大きい靴を履いているのだ。後ろが一センチ余っている。借りてくるものはモデルサイズだからだ。
靴や洋服をあなどってはいけないんだ。発するパワーを御せるかどうか、自分自身にかかっている。流行のものだとそのパワーはすごい。やっぱりコツコツと、自分で考え、自分で組み合わせるしかないと、私は思ったのである。エライ!