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美女入門04

时间: 2019-07-30    进入日语论坛
核心提示:野心というもの 今回は、マジメに仕事の話である。 私は以前からよく話しているとおり、野心を持った女の子が大好きだ。ただし
(单词翻译:双击或拖选)
 野心というもの
 
 
 今回は、マジメに仕事の話である。
 私は以前からよく話しているとおり、野心を持った女の子が大好きだ。ただしこれには、ありきたりの小細工をつかわないこと、という条件がつく。
 例えば、
 仕事のためなら、オジさんに手ぐらい握らせてやる。ま、相手次第ならキスも可か……。しかもセクハラなどと騒ぎ立てない。が、最後までさせてしまっては身もフタもない。この加減がわかる女というのはなかなかのものだ。
 世の中には、努力をあまりしたくないけど、ナンカ楽しいことをしたいという女はとても多い。書くことは嫌いだけれど、作家になりたい。入社試験は受けたくないが、社員の編集者になりたい、などと考える女は昔からよくいるが、こういう女はうちでおとなしくしていた方がよい。
 露骨な横入りはしない。別の人が貰《もら》うべきチャンスを、オジさん筋に取り入ってちゃっかり自分のものにする女はルール違反である。
 などといろいろ書いたが、ちゃんとした野心の条件とは、同性からやがて認めてもらえるというものだ。具体的な名はここで伏せるが、女が何年たっても絶対に許さない、成功した女というのがある。これはやはり後ろにオジさんや横取りの過去がちらつく女たちだ。ふつうにしていても野心を持って階段を上っていくと、いろんなやっかみや悪口が飛んでくる。さらにそこを何段か上らなければ、同性の尊敬はかち得ないのだ。
 が、まあ、二十代の女の子たちは、みんな同じようなスタートラインにいて、いろいろ大変である。OLもつらいが、特にしんどいのはフリーランスでマスコミで働く女たち。ここではほんのちょっとした運やコネが、彼女たちの運命を左右するのである。
 私のところには、しょっちゅうこういう女性たちがやってくる。インタビュー記事を取りに来るためだ。社員の編集者も多いが、たいていはフリーライターの女性たちである。私はコピーライターをしていたが、時には人のところに取材に出かけた。若い彼女たちの中に、昔の私を見ることがある。
 こうしたフリーライターの女性たちのうち、四割ぐらいは、ハヤシマリコなんか何さ、とつっぱっている。肩をそびやかしてこちらに敵意をあからさまにしているから面白《おもしろ》い。
 自惚《うぬぼ》れと言われることを覚悟で言えば、後の六割ぐらいは、まあそれなりに私に対して憧《あこが》れめいた気持ちを持っているのではないだろうか。売れないコピーライターから直木賞作家になる、というのは、文章を生業《なりわい》にする女の子にとって、確かにわかりやすいサクセスストーリーであろう。
 彼女もそんな女の子のひとりだったようであった。
「今日、ハヤシさんにおめにかかれると思うと、嬉《うれ》しくって嬉しくって胸がドキドキしちゃったんです」
 彼女は私に聞いた。今の時代、女はどうやって生きていったらいいのか。女にとってサクセスとは何なんでしょうか。
 私はそりゃあ、親切に答えてあげた。私は何だかんだといっても、基本的には女性にやさしい。特に頑張っている女性には、何かしてあげたいと思うところがある。私はうんと心をうち明け、女の野心ということについてこと細かく説明してあげた。
「あのね、女は平地にいるうちは何も見えてこない。そういう人生しか知らない。だけど階段を上り始めると、もっと上があることがわかってくる。すごくつらい。もう降りようと思って平地を見る。だけどもうあのフラットな場所には戻りたくなくなってくる。だから歯を食いしばって上に上らなきゃならなくなるの。すごくつらいし、苦しいわよ。だけどこれが野心っていうものなのよ」
 彼女は「なるほど」と何度も頷《うなず》いていたものである。
 ところが出来上がってきた原稿を見て、私は本当に腹が立った。赤ペンを入れて直す、というレベルのものではないのだ。文章もヘタなら、私の言っていることをほとんど理解もしていない。それよりももっと重要なことは、私の小説の主人公の名前さえ間違っていたのである。
 このレベルの文章で、彼女がフリーライターをやっていることさえ不思議だ。私は忙しいのに、レイアウトの文字数を計算し、全部インタビュー記事を書き直した。
 そして間に立った人にファクシミリを送った。
「これはプロの仕事ではありませんと、書いた人に伝えてください」
 私は悔しかった。私と彼女とが、心がつながったと思った一時間という時間は何だったのだろうか。私がかなり心を込めて語った言葉は何だったのであろうか。あの嬉しそうな目の輝きはいったい何だったんだ。
 野心というのはむずかしい。その大前提として、ふつう以上の才能というものがある。それもなく、これっぽっちの努力もしないで、マスコミの海の中を泳ごうとしている女の子を見るのが、私にはつらかった。最近このテアイが多過ぎる。親切にしようにも、しようがないぞ。
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