長年にわたって、私はワイドショーの熱心な視聴者であった。
独身の頃、起きるのはお昼近かったのでちゃんと見たことがない。けれども結婚したとたん、私はうんと早起きになった。
うちの夫は甘ったれのわがまま男なので、自分で朝ご飯をつくるなんてとんでもない話だ。
私は多くの若い女性に言いたいが、結婚生活に対して過剰な幻想を描かない方がよい。真白いエプロンをつけて、大好きな彼のためにハムエッグとミルクティの朝食をつくりたい……などというのは現実とあまりにもかけ離れている。結婚というのは、「○○してあげたい」という献身の甘やかさが、ひとつひとつ消えていくということである。最初にきっちりと考えた方がいい。
「私も疲れて寝坊したいこともあるから、基本的に朝ご飯は自分でつくってね」
このくらいビシッとしなければダメです。私なんか最初にいい奥さんを演じようとしたために、さまざまなことを未だにひきずっている。うちの夫は、朝は紅茶とトーストしかとらないくせに、自分でやるのは絶対にイヤだという。自分ひとり起きて、パンを焼くぐらい腹の立つことはないんだそうだ……。
話がすっかりそれたが、とにかく私は毎朝七時に起き、朝食を整える。夫を送り出し、ゆっくりと紅茶をすすりながらNHKの朝の連続ドラマを見る。それが終るとチャンネルを変え、ワイドショーを見るのをそれはそれは楽しみにしていたものだ。
けれどもこの頃、ワイドショーがまるっきり面白くない。誰かと誰かがくっついた、別れた、朝帰りした、と聞いても、
「それが何なのさ」
という感じである。年頃の男と女が何人もいる職場で、しかも普通の人よりもはるかに美しく魅力的な人たちが揃っている。これで恋愛が起こらなかったら不思議というものではないか。
おそらく私はキムタクと松たか子さんが恋人同士と聞いたとしても、そう驚かないと思う。
「あ、そう。さもありなん」
というぐらいだ。キムタクと市原悦子さんが愛し合っていると聞いたとしたら、最初は、へえーっとぐらい言うだろうけれども、そう興奮はしないはずだ。
「男と女とのことは、何があっても何の不思議もない」
という境地に達したからである。
私はこの年になってやっとわかったことがある。他人の恋愛にむやみに興味を持ちたがる女というのは、決して主人公にはなれないのだ。
「あの人とあの人とはデキているらしい」
という噂に異様に興奮したり、張り切って言いふらす女というのは、絶対に、「デキているらしい」方の女の人になれないのである。
人の噂話が好きだからデキないのか、デキない体質だから人の噂話が好きなのか、このへんのところは玉子とニワトリの関係に似て非常にむずかしい。
が、私が観察したところ、デキやすい女、つまり噂話の主人公になりやすい女というのはもの静かな人が多い。神秘的という言葉は古めかしいが、自分の私生活をあまり明かさないものだ。特に男性関係に関しては、ものすごく慎重である。
「すっごくモテるんですって」
と水を向けても、
「ふ、ふ、ふ……」
と笑うだけである。私はこの�ふ、ふ、ふ�がデキる女の鍵《かぎ》を握っているのではないかと思う。
「あのさ、今日のワイドショー見てたんだけど、反町と稲森って線、あり得るかもね。そうそう、高知と高島礼子が見てもらった風水のおじさんってすごいお喋《しやべ》りだよね。でも、占い師があんなにぺらぺら喋っていいもんかね……。ねえねえ、あのさA子って知ってるでしょ。あの人、うんと年上の男とつき合ってるみたいだよ。このあいだすっごく高いイタリアンに二人でいるところ見ちゃったもの。っていうことはさ、前の彼と別れたっていうことかしら。ねえ、どう思う?」
などと喋る女に、男は恋を持ちかけるものであろうか。恋というのは、言うまでもなく秘密を共有することである。こんな女とつき合った日には、すぐさまいろんなことをバラされると警戒するはずだ。
ところでつい最近、美しいことで有名なある女の人と一緒にお酒を飲んだ。その時、本当に驚いた。彼女って自分の恋愛のことをぺらぺら喋るんですね。人の噂話もいっぱい。私の今までの経験だと、美人はこんな風に過去を自慢しない。こんなに自分のことを打ち明けない。
「何かヘンだ。どうしてだろう……」
私はずっと考え続けた。主人公となるべき女が、あんなお喋りオバさんのような喋り方をするとは。私の論理がまるっきり崩れてしまうではないか。
が、同席した私の友人はあっさり解明してくれた。
「ハヤシさん、知らなかったの。あの人って有名なレズなんだよ」
なーんだ、そういうことか。普通の美人は、あんなに男性とのことをひけらかしたりしない。レズの美人は、自意識過剰のブスとまるっきり同じことをする。