週末を利用して温泉へ行ってきた。女のコに大人気の湯布院《ゆふいん》温泉である。私はずっと前からここが大好きで、二年にいっぺんぐらいの割合で訪れているのである。
さて各地の温泉をめぐり、かなりのオーソリティといってもよい私が、幾つかのアドバイスをしよう。といっても仲居さんへのチップの渡し方とか、共同浴場の入り方とかそういったものではない。もっと本質的なことデス。
まず第一に温泉は絶対に二泊以上すべし。一泊ということになると、朝もあわただしく帰り支度をしなくてはならなくなる。温泉の醍醐味《だいごみ》というのは、朝寝、朝風呂、朝ビールに尽きる。普段私は、トーストに紅茶といった朝食であるが、温泉は和食にする。湯豆腐、漬け物、海苔《のり》、ワサビ漬けなど、和の朝食はお酒のおつまみになるものが多いのだ。髪もボサボサ、化粧もせずに湯上がりにビールと朝ご飯を食べ、浴衣《ゆかた》のままゴロゴロする。もう、極楽というもんデス。
だからこそ重要なことは、
�温泉へは恋人と行ってはいけない�
ということである。
夫婦とか、かなり長く慣れ親しんだ彼ならばいいけれど、まだ熱い仲の男性とは絶対に行かない方がいい。
なぜなら温泉というのは、すごい分量の日常が持ち込まれるからだ。普通、旅行するとしますね、その場合ちゃんとハレとケが用意されている。昼間はちょっとおしゃれをして、観光をしたりドライブしたりする。スポーツ好きの二人だったら、ゴルフをしたり泳いだりという,また一応のイベントが用意されているわけだ。その上でのホテルのシチュエーションがあるワケ。
が、温泉地というのはそんなに観光するところがない。せいぜいが近くを散歩するぐらいだ。どうしたって部屋の中に入りっぱなしということになる。浴衣が色っぽいとか、うなじの後れ毛がいい、なんてカレが誉めてくれてちょっといい気分になるかも。が、長く続かない。だってね、朝から晩までずうっと一緒なので、まるっきり気が抜けないのだ。
普通の旅行なら、お化粧して外に出ていくという心の張りもある。が、日に何度もお風呂から出たり入ったりするんだったら、そんなもんうっとうしいだけ。寝ころんでテレビでも見たいナと思うけど、彼の目も気になる。それより何よりトイレが困る。
彼と旅行する時、女のコがいちばん悩むのがこのトイレ問題ですね。もちろん�大�の話。最近はすぐににおいを消す携帯式のスプレーもあるけれど、ああいう小細工はすぐに見抜かれるようだ。
ホテルのバスルームなら、中から鍵《かぎ》をかけ、ゆっくりバスにつかっているふりをして長居をするテもある。が、温泉の場合そうもいかない。うんと高級なところなら部屋に専用のお風呂がついているが、たいていの場合はトイレだけ、お風呂は大浴場になるものね。
やっぱり温泉というのは、女と行くに限る。私は、つい最近親しい女性四人で温泉に出かけたのであるが、食っちゃ寝食っちゃ寝の末、夜はすさまじい男|懺悔《ざんげ》という世界に突入したのである。が、日頃は忙しくてストレスのたまっている私たちだ。このくらいの楽しみがなくてなにさとばかり、一晩中騒ぎまくった。その温泉旅館は離れ形式だったので、明け方まで賑《にぎ》やかに出来たのである。おかげで、帰る時はみんなすっきりとした顔になっていた。
そう、温泉はリラクゼーションの場なのである。エステに行くのに男を連れていく人はいないであろう。それと同じこと。
さて、もう十年以上前のことになるが、私はテツオと一緒に温泉旅行に出かけたことがあるが、もちろんのこと女友だちもいて三人の旅行だ。場所はやはり湯布院温泉の離れの一室に私と女友だちが泊まり、ちょっと小さい一室にテツオが泊まった。
私の女友だちは、田舎の女のコなのでテツオのことをよく知らなかった。もしかすると私の恋人で、私がカモフラージュのために彼女を誘ったと疑ったらしい。が、私たち二人の様子を見て、全くそんな仲ではないとすぐにわかったようだ。なんだか寂しい話である。
ここで私はテツオのパンツを見てしまった。ご飯よと部屋に呼びに行ったら、パンツ一枚で洗濯をしていたのである。もし私がテツオの恋人だったらやっぱり幻滅したと思う。
私が今、独身だったとしても、やっぱり彼とは温泉に行きたくない。男と温泉に行くというのは、やはりオヤジ、オバさんっぽい行為である。エッチっぽい。体力があんまりないカップルという感じがする。それよりも若い恋人には他にふさわしい場所があるのではなかろうか。
ところで温泉に二泊して、私は二キロ太ってしまった。食っちゃ寝のツケはあまりにも大きい。ああ、ダイエットも出来る温泉というのはこの世にないものであろうか。しかしまた行きたい、近いうちに行きたい。温泉は男の人が不必要な、数少ない女のパラダイスなのである。