ジャーン、この私が今年のダイヤモンド・パーソナリティ賞に選ばれることになった。
これはその年、一番輝いていた女性に贈られる賞で、昨年は黒木瞳さん、一昨年は草刈民代さんとくれば、この賞の意味と価値がおわかりいただけると思う。
私に贈られる理由は、もちろんニンシンしたからじゃない。デビュー以来たえまなく努力して、作家としても女性としても進歩したからだということである。
私はこの朗報をさっそくテツオに話した。
「けっ、別の部門が出来たんじゃねえのか。文化人部門とか、シルバー部門とかよ」
全く失礼なことを言う。
が、私も心配になり過去の受賞者を調べた。するとオリンピックの年には、田村亮子さん、有森裕子さん、またゴルファーの岡本綾子さんなど女優さんでなくスポーツ選手の人たちもいることがわかり、ちょっぴりほっとした。
が、事務局の方が言うには、
「おととしから選考方法がちょっと変わって、授賞式もうんと華やかになりました。マスコミの方をいっぱい呼んで、受賞者はイブニングドレスをお召しになります」
ということである。
そう、そう、昨年は黒木瞳さんの受賞風景をテレビで見て、カッコいいなあと思ったけど、今年は私がその人になるのね。今まで直木賞とか、吉川英治文学賞といったものをいただいたが、文壇関係の授賞式とは全然内容が違う。
それにしても、黒木瞳さんと私は縁があるのネ、とつくづく思う。他の人から見ると、全然共通点がないように思われるであろうが、実はいろいろある。が、それを私が言うと人から殴られそうなので黙っているが、私はずうっと黒木さんのことを意識していたのである。私は昨年の黒木さんを撮ったパンフレットを見た。黒のイブニングドレスに、賞品のダイヤの首飾りの輝きがすっごく綺麗。私も同じような感じになるのね、じゃなかった、撮られるのね、困るわ、どうしよう。
が、ついていることがひとつある。このところいろんなことがあり、春に比べていっきに八キロ痩せていたのである。
私は例のニンシン騒動で、やたらワイドショーに顔が流れた。そして、私は怒りに燃えた。どこもかしこも、どうして昔のものばっかり流すのであろうか。最近テレビに出演していないこともあるけれど、本人さえ忘れているような映像を使うのだ。あの頃の私は、今よりもずうっと太っていて、歯の矯正もまだだ。エステ通いもしていない。したがって顔のラインがまるっきり違うのだ。
ひどいわ、ひどいわ、私が今年のダイヤモンド・パーソナリティなのよ。黒木瞳さんの後を継ぐ者なのよ。私だって、イメージというものがある……。
ひとり憤慨していたら、テツオが遊びにやってきた。彼は私が、今年の受賞者になったのがどうしても信じられず、証拠の品を見に来たという。私が事務局からの通知を出すと、
「やっぱ、辞退した方がいいんじゃない」
ときた。
「黒木瞳のあとじゃさ、不利っていうもんだよ」
「失礼ね」
私は叫んだ。
「これはね、有力女性誌の編集者たちの投票も入ってるのよ。マスコミに働く人たちがさ、この何年かの私の活躍をちゃんと見ててくれたのよ。世間が私の美と知性を認めたのよ。あんたなんかにガタガタ言われたくないわよッ」
私の剣幕にテツオもおとなしく引き下がったのである。
ところでこの連載のタイトルは「美女入門」である。女がいかに美しく、魅力的になっていくかを私なりに指摘しようというものであるが、教える方が説得力がないもんで、話があちこちにそれてしまった。が、今回、私は大きな教訓を授けよう(エラそうだな)。女が飛躍的に美しくなる時には、絶対に褒賞というものが必要である。場合によってはミスコンに出るのもよい。オーディションを受けるのもよい。が、これはかなりのレベルの女のコの話。
並前後の女はどうしたらよいだろうか。やはり恋人のひと言である。恋人の言葉こそは、ダイヤモンド・パーソナリティのダイヤの賞品にも匹敵するものだ。私はかつてうんと若い頃、恋人からじろりと腰のあたりを見られ、
「キミもさ、ウエストのあたりをもうちょっとどうにかすれば、グラマーって言われるかもしれないのに」
と言われ、とても傷ついたことがある。こういう冷静な視線って、とても悲しい。恋人はやたらめったら誉めてくれなくては。うちの夫にいたっては、もっとひどく、
「ねえ、私ってキレイだと思う?」
甘えて尋ねたところ、
「いやー、僕は僕なりの感想もあるけど、世間一般のそれと大きく違いそうだから言うのははばかられる」
ときたもんだ。こういう男性の言葉しか知らない私にとって、ダイヤモンド・パーソナリティ賞がどれほど嬉《うれ》しいかわかるかしら。そう、女もやり方次第で強引に、褒賞をもぎ取れるのだ。