今日は、ダイヤモンド・パーソナリティ賞の授賞式であった。
ダナ・キャランのジャケット、ラメのロングスカートといった、シンプルないでたちの私。一流のヘアメイクの方にしっかり化粧をしてもらい、当日の私は、友人に言わせると、
「女優オーラが出ていた」
そうだ。いやー、こういう図々しいことをさらっと言えるのも、当日まさに女優さんの一日だったからである。ワイドショーのレポーターや週刊誌、スポーツ紙の人たちに囲まれて記者会見をする。その後は、お祝いパーティーに出席。
そして夕方からがスゴイ。女性雑誌の表紙を撮影するために、篠山紀信先生のスタジオへ行ったのである。スタイリストの人が用意してくれた衣裳《いしよう》に着替え、カメラの前に立つ。
ああ、この恍惚《こうこつ》感を何と言ったらよいのであろうか。撮影中はみんな「キレイ、キレイ」と傍らから声をかけてくれるのがマナーというものだ。すると自分が本当に美人ではないか、という錯覚を起こす。
「あのさあー、自分で言うのもナンだけどさー」
私はテツオにさっそく自慢した。
「みんなから、女優オーラが出てたって、言われたのよね、私」
「あー、出てた、出てた」
とテツオ。この男が言葉を二回繰り返す時は、必ず意地の悪いオチがある。
「場末の女優ぐらいのオーラはね」
テツオはこのあいだ、中山美穂ちゃんの撮影に立ち会ったばかりだという。
「いやー、綺麗だったなあ……。本当にいいもん見させてもらいましたっていう感じだったな」
意地の悪いテツオが感心するぐらいだから、美人女優というのは本当にスゴイんだろう。
私は中山美穂ちゃんの本物を見たことはないが、仕事柄、対談などで女優さんにお目にかかることがある。ある時、某美人女優さんと会うことになった。約束の時間を過ぎても、彼女は隣の部屋でヘアメイクさんがかかりっきりだ。やっと現れた。意外であった。写真やテレビで見るのとちょっと違っていた。肌が荒れていてびっくりした。ところどころ白墨を塗ったみたいに、コンシーラーが塗られていてすごくヘン。ところが出来上がった写真を見て驚いた。透き通るような美しい肌に写っているではないか。あの白墨みたいなコンシーラーは、モノクロ写真を充分計算したものだったのだ。ヘアメイクさんもエラいが、女優さんもエラい。どっちもプロに徹している。
ところで私たち庶民の女は集まると、どんな顔に生まれたかったかと話すことがある(なんか情けない話題であるが)。
「私はやっぱり、キョンキョンかな」
とA子。
「年とらない可愛さだし、誰からも好かれそうだもん」
「私は藤原紀香の顔とボディ」
「もうちょっと若かったら、吉川ひなのの顔をいただきたい」
などとみんなお酒を飲みながら、言いたい放題。だが私は、この一、二年、黒木瞳さんと決めているの。
「ああいう顔してたら、どんなに人生楽しいかなあ……。一日だけでいいから、顔を貸して欲しいなあ……」
渋谷の街に出て、声をかけてくる男を片っぱしから無視する。それから好きな男の人に会って愛を告白させる、などと馬鹿な夢をしばらく語り合う。
黒木瞳さんも私たちの間では人気があるが、二番目ぐらいは○○さんであろう。彼女の非のうちどころのない美貌《びぼう》というのに、私たちはすごく憧《あこが》れている。
ところがある日、テレビ局に勤める友人と食事をすることになった。
「○○って綺麗《きれい》よねえ、あの人のCMが流れるたび、私、うっとりしちゃうのよ」
私が言うと、相手は、ふふっと笑った。
「○○って、有名なレズだよ」
「えーっ、何ですって」
のけぞるほど驚いた私。
「だってあの人、あんな美人なのにまるっきり男の噂が立たないでしょう。それに彼女、ドラマの中でラブシーンやベッドシーンやってるの見たことある? もう脚本の段階で拒否されるんだから」
私はすっかり嬉しくなり、友人に電話をかけまくった。
生まれついての美しさに恵まれ、その美しさを十二分に享受していると思っていた女優さんにも、そんな人がいたのね。人生って、そうでなけりゃ。宝の持ち腐れといおうか、もったいないことしてるのね。なんかすごく嬉しい。
私は、もちろんテツオにもこの話をした。が、彼は信じてくれない。
「あんたみたいな女が、やっかみからつまんない噂を流すんだよね」
と、つれない言い方である。美人はどこまでいっても庇《かば》ってもらえて、本当に得だ。
そういえば人気俳優のCがホモと教えてあげた時、私の友人は、
「彼が他の女のものにならないと思うと、幸せ」
と言ったものだ。ファンの心理ってそういうものかもしれない。しかし、○○さん、男の人のために使わないなら、あの顔、私におくれ!