仲のいい友人とおいしいものを食べるというのは、私の人生における大切なことのベスト3に入る。そのためにはお金を遣おうと、デブになっても構わない。このところ忙しくて、なかなか夜遊びが出来なかった私であるが、徐々に�再デビュー�への道をたどっている。
当然のことであるが、流行の店が私は大好き。まず女三人で出かけたところは、西麻布に新しく出来た焼肉屋さんである。この店は外見もなかなかしゃれているし、何よりも味がすごくいい。前もって頼んでおくと、前菜を何皿も出してくれるのだ。人に聞いたところによると、ここはすごく芸能人が多いという。夜の遅い芸能人は焼肉屋ととても縁が深い。よって彼らが足繁く通ってくるということは、とてもおいしいという証拠だ。
私たちは奥の隅の方の席に座っていたのであるが、隣りのテーブルも空いていた。私は長年の勘で、
「きっとこの席には、有名人が来る!」
と感じた。私の予想通り、しばらくたってから店長が私の連れ《プロデューサー》にささやいた。
「この席、すぐに○○さんが来るけど……」
何か不都合なことはありませんか、という意味らしい。が、不都合があるのは女優の○○さんの方であろう。せっかく仲間と楽しいお食事にやってきたのに、隣りの席にハヤシマリコをはじめ、こうるさい女が三人いたら、さぞかし嫌に違いない。
やがてスッピンに眼鏡をかけた、顔見知りの○○さんがやってきた。私たちを見て挨拶《あいさつ》をしたものの、すぐに近くの席に移っていった。
「逃げたのね」
帰り際にからかったら、
「そんなことありませんよ。人数が増えたんです」
だと。が、こんなに気を遣わせた私が、かなりイヤになった。人間、焼肉食べる時ぐらい気楽にいたいよね。ごめんね。だけどこんな店に来るあなたも悪いのよ。
次の日、作曲家の三枝《さえぐさ》成彰《しげあき》さんの事務所へ行った。最近、東北地方の某市の子守歌をつくった私たち。その打ち合わせに市長さんもいらしていた。打ち合わせが終わった後は、皆で六本木の「金魚」へ行く。コンピューターを駆使した舞台を見せる、大人気のショウパブである。ショウがはねてから車で白金《しろがね》へ向かった。
「今さ、いちばんカッコいいレストランへ行こうよ」
こういう情報に詳しい三枝さんが言った。
「もうありとあらゆる店に行った遊び人たちが、みんな通ってるよ。いつも有名人でいっぱいだよ」
白金の高速の下にあるその店は、ラーメン屋の隣り、スダレがかかった木造の建物である。外にも机と椅子が置かれていて、一見チープな建物。中はおしゃれな炉端焼き居酒屋、といった風情であろうか。料理は冷やしトマト、山菜のクルミ和《あ》え、ネギのごまよごし。そのうちに炭火で小魚やタコを焼いてくれる。このひなびた、ちょっと野暮ったいところが、都会人のおしゃれ心を刺激したのであろう。しかし東北の市長さんはどう感じたかしらん……。
「あの、おたくの方にこういう店、ありませんか」
と聞いたら、
「うちにもまだ炉端が残ってて、こういうものをよく焼きます」
だって。なんかおかしい。
そして次の日、テツオとランチを食べに行った。昔からごひいきの青山のイタリアンレストランだ。ここは昼間も手を抜かず、ランチも最高だ。私はテツオにこんな話をした。
何年か前、ここである男の人とデイトをした。
「ハヤシさん、この店はよく来るの」
「まあね」
「いい店だね。料理もおいしいし」
などという会話があったのを憶《おぼ》えている。この人とはデイトを重ねたものの、このところすっかり疎遠になっている。ところがある日、食事にやってきてふと鏡を見たら、離れた席に座っている彼が見えるではないか。若い女が一緒であった。立ち上がる時ちらっと見たら、ゼブラ柄のスーツを着ていた。
ゼブラ柄よ、ゼブラ柄! しかもスーツ! それだけでどれだけ趣味が悪い女かわかるだろう。
「全くああいうことをされると、女として頭にくるよ」
と私。
「そうかなあ」
「あったり前でしょう。初めてのデイトの時に使った店なのよ。それなのにちゃっかり、今度は若い女を連れてきてるのよ。いくら極悪非道のあんただって、こんなことはしないでしょう」
「男だったら、するんじゃないのォ」
とテツオ。いくら別の女と来た店だって、利用出来そうな店は活用するんだそうだ。こういう男のいい加減さが、私は許せない。女はもっとお店に対して潔癖である。操をたてているといってもいい。見習って欲しいものだ。