みんなで温泉へ遊びに行った。男友だちも一緒である。ここは秘湯の中でも特に人気が高く、大きな混浴露天風呂があるという。
「みんなで一緒に入って、中でお酒飲むと楽しいよ」
と誘われる。
「あ〜あ」
私はため息をついた。
「ナンダカンダ言っても、一年前にはそれなりに自信もあったけど、もうヒト様にお見せ出来ないわ……」
これから恋をするとしても、もうプラトニックしかないと決心している私なのである。いくら親しい友人ばかりだといっても、混浴はちょっとねぇ……。それに中には、私がちょっと憧《あこが》れている建築家のA氏もいるではないか。ヘンなもん見せて、彼に嫌われたくないわと、思いは千々に乱れる。
「平気、平気」
この温泉を案内してくれた、別の男友だちが言った。
「ここはランプのあかりひとつしかないし、温泉は白く濁っているんだよ。入る時にバスタオルを巻いて中で取る。そうしたら何も見えないよ」
最初に女だけで入ったら、確かに薄闇の世界である。温泉はミルクのように白く濁っているし、これなら何も見えないはずだ。それにこういう山奥に来てまで、見えた、見えないは、ちょっとハシタない感じ。そお、みんな大らかにならなきゃいけないのよね。
話は突然変わるが、スキー場へ行くと男のランキングが入れ替わるように、温泉へ行くと女のランキングも変わってくることがある。都会にいる時は、ジミで目立たなかった女のコが、結構ナイスバディだったり、浴衣姿《ゆかたすがた》が色っぽかったり、素顔が綺麗だったりすることもある。
大学生の頃、友人と旅行したら、朝の私の顔を見て、しみじみと言った男の子がいたっけ。
「マリちゃんって、肌がキレイなんだねぇ……」
そお、お化粧をする前の私の肌って、二十歳当時は白くさえざえとしていたのよね……。まあ、それで何かが起こったわけでもないけれど、とにかく温泉旅行というのは女の美点を発見してもらういいチャンスである。
だけど私には、もうそんな野心はないわ。白いお湯の中で、私はのびのび体を伸ばし「川島なお美──」と叫んで結構受けた。これはどういうことかというと、映画「鍵」のポスターを思い出していただきたい。素っ裸のなお美嬢が、うっとりと浴槽に横たわっている写真である。
やがて男の人たちがお酒を持って、どやどやとお風呂に入ってきた。中でビールや日本酒を飲んで、とっても楽しい。が、びっくりすることがあった。今回初めて会ったOLのB子さんが、岩に置いたビールに手を伸ばすたびに、上半身をお湯からぐーんとあらわにするのだ。おっぱいが丸見えになって目のやり場に困る。かなり大きな胸が、ゆらゆら揺れるのだ。いくら無礼講の混浴といっても、ここまで見せてもいいのかしらん。いやいや、みんなが裸のつき合いを楽しむ場なんだから、私のようにかたくなになるのもおかしいかもしれないと、反省する。
B子さんは胸も大きく、ウエストもきゅっとくびれていてなかなか素敵。ものすごくコケティッシュな顔立ちで、アップのうなじも色っぽいぞい。そうね、こういう人だから、こんなに天真|爛漫《らんまん》にふるまえるのね。私って、イヤね。コンプレックスがあると、こういう時、自然に明るくふるまえないのね……。A氏が寄ってきて、言う。
「ハヤシさんって、本当に用心深いよね」
こんなのって、こんな場合、決して誉め言葉にならないと思うわ。お湯にあたった私は、バスタオルを巻いて早々に出てきたのでありました。
そしてその後、宴会があり、私は途中で眠ってしまったけれど、またみんなは、露天風呂に入ったようだ。B子さんも、他の若い女のコたちもぐでんぐでんに酔っぱらっていて、男の人たちに言わせると、
「お風呂の縁に腰かけて、もうヘアまでばっちり見えた」
ということである。
そして次の日、意外なことが判明した。な、なんと、あの色っぽいB子さんは私よりも年上だったのである! 男友だちの一人は言う。
「あのおっぱいからして、エステへ行って相当努力しているんだろうなあ、見てあげるのも功徳だと思った」
私がこの話をテツオにしたら、何だかよくわからないが急に怒りだした。
「けー、その年で見せようなんて、どういう根性してるんだろうなあー」
「でもすごくいい体してたよ。あれなら見せてもいいんじゃないかしら。私は身のほど知ってるから、お湯の中で肩から下は絶対に見せなかったけどさ」
「あったり前だよ。それがマナーっていうもんだ」
ウチの夫も怒った。
「みっともないもん見せんな」
私はとても悲しかった。