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美女入門174

时间: 2019-08-22    进入日语论坛
核心提示:ブランド・マジックこのあいだグレイのフラノの、ロングスカートを買った。どんなトップにも合う便利モノである。パリで買った真
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ブランド・マジック

このあいだグレイのフラノの、ロングスカートを買った。どんなトップにも合う便利モノである。パリで買った真っ赤な半袖《はんそで》ニットともいい感じ。
ところで話は変わるが、最近私はガードルをしている。ロングのハードなやつだ。ついこのあいだまで、いくらデブといってもガードルは必要としなかったのに、体型が変わるのはアッという間なのねえ……。|ニク《ヽヽ》が憎いわ……。
ある日私はそのガードルを身につけ、グレイのロングスカートをはいた。このスカートは後ろのスリットがすごい。スカート丈はくるぶしまでの長さなのに、スリットは太ももの半分までくる。私は家を出る前大丈夫と判断したのであるが、地下鉄の階段を上がり始めてふと気づいた。後ろからくすくす声が聞こえてくるではないか。そお、スリットからガードルが見えていたのね。
今までスリットからスリップやガードルをうっかり見せてしまうのは、アホなオバさんだけだと思ってたのに、この私がやってしまったのね。ああ、恥ずかしい。
が、こんなことは実はそう珍しくないことなのである。私はだらしないアバウトな性格のうえに、目が悪いときている。このあいだまでは近眼だったけど、この頃は気のせいか老眼もきてるような気がするの。私は家を出る時、絶対に黒いタイツだと思う。ところが外に出て外光の中で見ると紺のタイツだということがしょっちゅうである。
黒いニットには、たいてい猫の毛がついていると人は言う。が、これに関しては居直ってしまう私。
「クリーニングの袋から出したばかりのセーターに、猫の毛がついていたとしたら、これはもう不可抗力というものであろう」
思えば子どもの時から、こうした失敗はしょっちゅうしてきた。高校の時、コートを脱ごうとしたら制服のスカートをはいていなかったことに気づいたことがある。これよりはひどくない例として(他人から見れば充分にひどいか)、冬の朝、スカートの中が何かもそもそするなあと思ったら、なんとパジャマの下をはいたままだったのだ。
そう、デブゆえの失敗も多いわね。私は自慢じゃないけど、スカートのホックをきちんと留められる可能性は、半分以下といってもいい。たいていがきついのを承知で買っているから、ホックをはずしたままなのだ。たまに痩《や》せてゆるくなったり、きちんとしたサイズのものを手にし、ホックを留められる位置を得たとしても、ヘンに自虐的な気持ちになってしまうの。こういう気持ちって、したことのない人でなければわかるまい。つまりホックを留めようと思えば留められる喜びをじっと噛《か》みしめるが、それを遂行すると幸せが逃げていくような気がするの。
「私はホックをぴしっと留めることが出来るんだけれども、わざとそうしない余裕」
を味わおうとするわけですね。
デブの人がだらしない印象を与えるのは、たぶん体型のせいだけではない。きっと洋服がぴっちりと身につかないせいだろう。
私は先日、ぴったりとしない服が、いかに人間をババッちく見せるか身にしみて感じたことがある。休暇で田舎へ帰った時のことだ。遠い親戚《しんせき》に不幸があり、親の代わりに葬儀に出席することになった。が、急のことだったので、私は東京から喪服を持ってきていない。仕方なく近所に住む従姉《いとこ》のものを借りることにした。従姉は私よりも十五歳年上で、私よりもやや太っている体型である。黒いダボダボのノーブランドの喪服を着た私を見て、従姉は驚いたように言ったもんだ。
「こういうの着ると、あんた、本当に田舎のオバさんだね」
私も鏡を見て本当にそう思った。サイズも好みも全然合わない服を着た私は、すごくつまらない顔をして五つぐらい老けてみえる。さっきまでジル・サンダーのパンツはいてた私とは別人よ。
私って頑張ってるのネと、しみじみ思った。世の中はブランド品のことを悪しざまに言う人も多いけど、あれは高いお金をかけて魔法をかけてもらうのね。服に愛と尊敬をはらう代償に、下にずり落ちそうになるところを何とかひっ張り上げてもらってるのね。
ちなみにその黒い服を着た私は、本当にタダの田舎のオバさんになって人々の中に混ざったらしく、同級生も知り合いも誰ひとり私に気づかなかったようだ。
やっぱり服は自分に合った素敵なものを着よう、それもミスをしないように着ようと決意した私である。
ところで、今年のパリ・コレに行った編集者やスタイリストの人たちが帰ってきた。
「今年はどこがいちばんよかった?」
と尋ねたところ、誰もが口を揃えてバルマンと言う。あら、ま、私の知らないところでまたデザイナー交替があったのね。が、私はまだバルマンを着たことがない。さっそく店に、リサーチすることにする。
「だけどハヤシさん、あそこはちょっとサイズが小さめかもしれませんよ」
うーん、またホックをちゃんと留めずにはくことになるのか。いいもんは着たいけどだらしなくはなりたくない。私はいつもこうした矛盾に苦しめられるのね。
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