この本が出る頃には、古い話になっていると思うが、小柳ルミ子さんの離婚会見、すごかったですね。
芸能活動をきっぱりやめるか、それとも一億円払うか、と言って迫り、
「社会人としての責任を持たせるために、心を鬼にしました」
だって。どこかの男性週刊誌が、
「とっくに鬼みたいじゃないか」
なんて書いていた。どうも男の人たちは、この離婚騒動について、小柳ルミ子側をすっかり悪と決めつけているようだ。
「大澄賢也じゃなくても、これじゃあ男は誰だって別れたくなる」
だってさ。ちょっとひどい書き方である。それにひきかえ、女の方は俄然《がぜん》歯切れが悪い。
「気持ちはわかるけどさー、あそこまでしなくってもさー」
「だけどさー、あそこまでしなくっちゃ、ふっきれなかったんじゃないの……」
と嫌悪と同情が入り混じっている感じ。
ところでこの記者会見の次の日、久しぶりにサイモンさんと会った。私はさっそく意気込んで言う。
「サイモンさんはすごいわ。十年前にこのことを予言していたんだもんね」
あの頃、ルミ子&賢也というのは、ラブラブイチャイチャコンビとしてまわりの人を唖然とさせていた。特に結婚式の時の長い長いディープキスというのは、当時何といおうか年上女と年下ツバメ男とのイコンのように光り輝く像になっていたのである。
「自分で力がある女は、ああいう風に若い男を愛し育てていくのもいいかもね」
という風潮が世間に流れる中、�待った�をかけたのが、サイモンさんだったのである。サイモンさんはエッセイの中で、
「ルミ子とケンヤとの仲は、強い母と甘ったれ坊やの関係そのままである。ケンヤがやがて自信を持ち自立したいと思った時、親離れするように、ルミ子から逃れたいと思うに違いない」
今思うと正論そのものなのであるが、これをルミ子さんが読んだらしい。そして激怒した。
「私たちは絶対に別れません」
「あの頃さ、週刊誌やワイドショーがやってきて、『ルミ子VS柴門ふみの大喧嘩《おおげんか》』なんて書かれたこともあるのよ。だけどさ、今度の離婚の時は誰も来ないの。だから私の正しさは証明されないのよ」
サイモンさんはちょっぴり口惜《くや》しそう。仕方ない、世間の人というのはとても忘れっぽいのである。でも、ちゃんと私は憶《おぼ》えてるよ。自慢にもならないけど。
ところで私のまわりでも、年下男に入れ上げてる例が実に多い。そして八割がた別れている。そのうちのひとりは、ルミ子問題に関してこう発言している。
「仕方ないのよー、若い男が年上の女を捨てるのは、これはもう世の習いなのよ」
その時は口惜しくて悲しくて胸が張り裂けそうになるけれども、とにかく仕方ないことだと自分に言いきかせるそうだ。なぜこのように口惜しくなるかというと、最初のうち年下男ほど、積極的で情熱的に迫ってくるからである。女はそんなにバカじゃない。特に私の友人たちのように、分別ある女たちは一応年下クンを拒否する。
「私を幾つだと思ってるのよ」
「やめてよ。私たちがうまくいくはずないでしょう」
ところが年下クンの方は絶対に諦《あきら》めない。愛しているとか、あなた以外の女の人など考えられないとか、普通の人の五倍以上力を込めて口説く。だからついふらっとなる。つき合えばつき合ったで、年下クンは可愛い。甘えてくるのもうまいし、強がり言ったりするのも可愛い。それで女の方の気持ちが傾いてくると、男の方はうるさがってくる。女はアレッと思う。そして男を責める。そして追う。口説かれた時の印象があまりにも強烈なので、女はこんなはずじゃなかったと思ってもっと追う。そして男はさらに逃げる。これはよくある年上女と年下クンのパターンだ。男と女の関係というものは、すべてシーソーになっている。片方が重くなると片方が軽くなるというのは、誰でも知っている真実だ。しかし年上女と年下クンの関係というのは、このシーソーゲームがとても早く突然に始まり、すごい勢いでぎったんばったんになってしまう。これがつらいところですね。
私は自慢じゃないけれども、今まで年下の男に心をひかれたことがない。一度だけ二歳年下とつき合ったことがあるが、二歳ぐらいなら今の時代、どうってことはないだろう。どうせ捨てられるのがわかっているうえに、年下の男を恋人に持つと、自分の容貌《ようぼう》への不安、他の女への不安、猜疑心《さいぎしん》というものも二倍のボリュームでやってくるような気がするのだ。が、私の友人は言う。本当の恋の醍醐味《だいごみ》を味わうには、年下の男でなくてはダメなんだと。
「眠っている時の肌なんか、若いコだとすべすべして綺麗《きれい》。その寝顔見ながら、この男を絶対に他の女に渡すものかという思い。あれはなかなかいいもんですよ」
恋は本当に奥が深い。マゾっ気の極致というべきものをわざわざ味わうわけだ。そして別れたら別れたで、サドに転じる。こんな気持ちの揺れを楽しむんだったら、よっぽど女に余裕がなけりゃ。私には絶対ムリ。