仲間うちの親しい男性が言った。
「最近、ハヤシさん、痩《や》せてキレイになったって評判だよ」
お、嬉《うれ》しい。
「このあいだもさー、AとかBとかCで飲んでたらさ、その話になってさー」
いい感じである。AさんBさんというのはハンサムでインテリ。前から私の憧《あこが》れの男性だ。
「そしたらさー、みんなで意見が一致してさ。あと五キロ痩せたら�やれるな�ってことになったんだ」
私は激怒した。「やりたい」とか「やらせていただきたい」というのなら、下品な言い方だがまだ我慢しよう。それなのに言うにことかいて「やれるな」だって。ここには「やりたい」と大きな差がある。なんかもの凄《すご》くエラそうじゃないの。高みからこっちを眺めてて。
Aさん、Bさんにあれこれ言われるならともかく、Cさんなんかただのスケベ男で、女と見ればすぐ口説くのを趣味としている。このあいだは旅行先で誰も相手にしてくれず、マッサージのおばさんにイヤらしいことをしようとして突きとばされたそうだ。
そういう男にどうして「やれるな」なんて言われなきゃいけないんだろ。頭にきてテツオに話すと、
「そういう対象に見られるようになっただけでも、いいじゃないか」
ということであるが、私にもプライドというものがある。
まあ、女に生まれて楽しいことのひとつに、男の口説き文句を聞くということがあろうか。切羽詰まったものから、いろいろ工夫を凝らしたものまで、男の人はさまざまな言葉を口にする。ま、突然行動に出てくる人もいるけれど、これはこれで悪くないかも。
私など、めったにないことなので、
「そうか、そこまで言っていただけるなんて」
などと心を動かすことが多かった。でもカラダの方は自信がなく、今ひとつ動かすのがまれであった……。
私の友人で自他共に認める遊び人がいるが、彼が今までいちばん効いた口説き文句といおうか口説き行動は、ひたすら土下座することだという。
「お願いだ、一度だけでいい。それを一生の思い出にするから」
と額を床にこすりつけると、たいていの女性はOKしてくれるっていうけど、本当かな。
私はモテる女友だちに聞いたことがある。
「あなたみたいに、仕事関係の人までいろんな男の人に口説かれると、いろいろやりづらいことが多いでしょう」
「あら、そんなことはないわよ」
彼女は明るく言う。
「もうどんな人もウエルカムよ。選ぶ選ばないは、こちらの勝手だから」
また別の友人の話であるが、仕事の都合で大阪に移った。そうしたら大阪の男があまりにも気軽に口説いてくるんでびっくりしたんだそうだ。
「なあ、やらしてえなあ。ええやんか、なあ、頼むわ」
みたいなことを平気で言うらしい(地域によるかもしれないが)。そして彼女は、大阪の女のコから断り方を伝授してもらったそうだ。向こうも断られて元々で言っているのだから、本気でむっとしたりしない。にっこり笑ってこう言えばいいんだと。
「また今度ね」
それにしてもむずかしい時代になったものだ。ちょっと前まで、世の中にはひとつのルールが確かに存在していた。それは、
「会ったばっかりの、よく知らない男のコとそういうことをするのは軽い」
というアレですね。けれども最近は、知り合ったばかりの男のコでも気が合えば、そして楽しい思い出がつくれればベッドに直行してもいいんじゃないかという考え方だ。そこからちゃんとした恋愛が始まることだってある。そう、すぐに変更になったマツモトキヨシのあのCMですね。
昔だったら、すぐにOKするのは、ちょっとねえ〜、という非難が立ったはずであるが、今はそんなことを言う人はあまりいないだろう。「ちょっとゲームのお手合わせを」という感覚に近くなっている。
だからこそ見極めが大変なんだ。
私はまず身元がしっかりしていることを第一に挙げたい。学生時代、私は帰省する列車の中で、前に座っている男にナンパされたことがある。彼は有名大学の学生を名乗った。同じ学生ということで気も合ったので、私は無視するのも惜しいと思いこう言った。
「学生証見せて頂戴《ちようだい》。私、あそこの学生証がどんなになってるか知りたいの」
本物とわかり、途中下車して半日遊んだのち電話で連絡をとり合った。それからもうひとつ大切なポイントは、その口説くシーンへいくまで、どのくらい彼がお金を遣っているかということであろう。学生なら学生なりの見栄の張り方がある。ファーストフードでごまかされて、その後お手軽に、なんていうのは絶対によくない。
私の男友だちの中でよく自分の手柄を語りたがる人がいる。
「結構可愛いコなのにさ、すぐにOKしてくれてラッキーだったな」
そういうストーリーの登場人物にだけはなりたくないと思い、ずっと生きてきた私です。