初対面の人に必ずといっていいほどされる質問がある。それは、
「テツオさんってどんな人? 本当にハンサムなの? 本当にあんなに意地が悪いの?」
といったものである。
私は皆さんの疑問にお答えしようと決心する。テツオに言った。
「ねえ、今度のサイン会に一緒に来てよ」
ご存知『美女入門PART2』の発売を記念して、このところ東京や札幌でサイン会をすることになっているのだ。来週は博多へ行くことになっている。
「もうさ、フグを食べられる頃になっていると思うよ」
と言ったらかなり心が動いた様子だ。
「私と仲のいい地元の女子アナも呼んどくから、ぱーっとやろうよ」
「おっ、いいじゃん、いいじゃん」
ということで話がまとまった。
「ところで、その女子アナっていったいいくつぐらいなんだよ」
「えーと、確か私よりひとつかふたつか下なんじゃないかな」
「あんたねぇ……」
などというやりとりがあったのであるが、とにかく私とテツオは九州に飛んだのである。
当日テツオと他の人たちは見物に出かけたけれども、私はホテルの美容室へ行き、ブローとネイルをしてもらった。「美女入門」を書いてからというもの、なんといおうか自覚と責任をもった私である。
買ったばかりのジル・サンダーのスーツを着て、会場へ行った。ま、自分でこういうことを言うのはナンであるが、ほんとのことだから仕方ないわ。
来てくださったほとんどの方がこう言ったの。
「ハヤシさんが、こんなにスリムできれいな人とはびっくりしました」
だって。そうそう、こんなメッセージを書いてきた人もいたわ。
「作家っていうよりも、女優さんって感じですね」
あーら、ほんとのことよ。このメッセージカードは、みんな見ているもん。が、最初は嬉《うれ》しかったけど、だんだん複雑な気分よ。だってほとんどの人が、イメージとまるっきり違うって言うんだもの。
世の中の人っていうのは、私のことをほんとにブスですっごいデブだと思っているみたいね。だからあんなに驚くんだわ。いじいじいじ……。ま、それはさておき、サイン会に来た九割の人が私に尋ねた。
「テツオさんって、どんな人なんですか?」
「そこに立ってる人がそうですよ」
エーッ、たちまち起きる大歓声。気がついたら、テツオってば女のコに囲まれて、サインなんかしてるじゃないの。
後でテツオが言うには、
「やっぱり頼まれると嫌って言えねぇもんな。これも読者サービスだぜ」
などと照れていたが、結構嬉しそうであった。読者の人が私に言った。
「私、ひと目見てテツオさんだってすぐにわかりました。本当にハヤシさんの言うとおり、ハンサムで素敵な人ですね」
と評判がよいのである。
「だけど……」
と、その人は言った。
「本当に、ハヤシさんの書いているみたいに、テツオさんって口が悪いんですか? 本当にあんなにひどいことを、言ってるんですか?」
本当ですとも。その夜のことである。例のアナウンサーのA子さんがやってきて、たのしい食事となった。彼女は、少々とうがたってきたというものの、本当に美人である。頭もよく、知的で素敵な人だ。
しかし、こういう完璧《かんぺき》な人が必ずしも幸福とは限らないように、彼女も独身である。ちょっと酔っぱらった彼女から、悲しい恋の話を聞いた。その時はたいして興味もなさそうにしていたテツオであるが、その後でしみじみ言った。
「典型的な男運のない感じだよなぁ。ブスで男運がないと、まあ、同情もされるけどよー、あんだけ美人だと、本人が好きで男運悪くしてるんだろうな、ってことになるよな」
などと、ひどいことを言う。
このことを別の女友だちに言ったら、
「自分だってまだ結婚できないんだから、女運が相当悪いんじゃないの」
と笑っていた。そういえば、読者の方からの、これまた多くの質問に、
「テツオさんは、まだ結婚してないんですか」
というのもある。正真正銘の独身である。しかし彼は自分のことを、女運が悪いとは思っていないようである。いろいろチャンスはあったんだけど、選んでいたんでこうなったんだと言い張る。
私は、こんな話をしてやった。
「あんたも知ってる、私の親戚《しんせき》のOLチエコ、このごろ結婚したくなったんだって。だから、テツオさんなんかどう? って言ったらさ、四十過ぎたおじさんなんか、絶対に嫌だ、って言ってたよ。若い女のコから見れば、あんたなんか、もうそんなものなんだよ」
と言ったら、
「チエコが本当にそんなことを言ってたのか。若いったって、自分も三十いったくせに、よーし覚えてろ」
とかなり本気でおこっていた。しかしこんなテツオでも、博多の皆さんにちやほやしていただき、とても嬉しかったみたいだ。著者(私のことね)ともどもありがとうございました。