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美女入門210

时间: 2019-08-23    进入日语论坛
核心提示:添えもの人生めっきり痩《や》せてキレイになった、という評判の私。こうなってくると、人に見せたくなるのが人情である。「ここ
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添えもの人生

めっきり痩《や》せてキレイになった、という評判の私。こうなってくると、人に見せたくなるのが人情である。
「ここらで一発、テレビに出てみるのもいいかも。本も売れるしさ」
とテツオが言う。しかし普段テレビ出演をしないことにしている私のところに、めったに依頼はない。たまに来ても、「エーッ、なんで私が」と、がっかりするような内容のものばかりだ。私が望んでいるのはさ、おしゃれな番組にさりげなく出ることなのであるが、世の中そんな風にうまくいくはずないわよね。
ところがある日、思いっきり華やかなご招待がやってきたではないか。世界的なダイヤモンドの広報団体であるデビアスが、国立科学博物館で「ダイヤモンド展」を開くという。二年前私がここから、「その年いちばん輝いた女性」ということで、ダイヤモンド・パーソナリティ賞を貰《もら》ったことを憶《おぼ》えているだろうか。今回そのよしみで、オープニングパーティのテープカットをしてくれというのだ。もうひとり大物の女優さんか歌手の人に交渉中だという。
ふーむ、いい感じかも。当日はマスコミの人もいっぱいやってくる。ワイドショーのクルーもくる。いつもはそういう前を通るのがイヤで、パーティにも試写会にも行かない私だけれど、ちょっと出てみるのもいいかもね。当日はうんとおしゃれをしちゃおう。テレビを見ていた人は驚くかも。
「わ、すごい変わってキレイになっちゃって」
週刊誌のグラビアにも出るかも。そうそう十三、四年前、コレクションを見に行った私がめっきりスリムになっていたというので、女性週刊誌の表紙を飾ったことがあった。中吊《なかづ》り広告にもどーんと出て、電車に乗っていた私は、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになったわ。ここんとこめっきり地味になってる私に、もうそんなスポットライトはあたらないかもしれないけど、とにかく今度のパーティで素敵な私をご披露するのよ。
当日私は、わざわざヘアメイクの人に家に来てもらった(もちろん自費)。流行のメイクをしてもらい、ミラノで買ったシャネルのイブニングドレスを着た私は、もうすっかりスター気分。
テープカットをするということで、デビアスがハイヤーを頼んでくれた。ところがこの運転手さんがドジで、裏門につけるのである。
「こんな真暗で、人けのないとこ、違うと思うけど……」
「いや、ここがそうです」
ときっぱり。車から降りて確かめると、正面は違うところだという。が、私と同じようにここで降りてしまった人が何人かいる。中にお相撲さんがいた。着ているもので人気力士とわかる。
「よかったら正面玄関まで、この車でご一緒に」
「すいません。ありがとうございます」
近くで見たらものすごい美男子で感じもいい。雅山関であった。私はデブの男は嫌いであるが、こんな風ならいいかも。今日からファンになるわ。そうだわ、入場する時、腕組んでもらって一緒に入ろうかな……などといろいろ考えたのだが、彼は仲間のお相撲さんと待ち合わせていて途中で降りてしまった。
私はひとりで、よたよたとライトが煌々《こうこう》とついた階段を上がる。すごい高いヒールを履いてきたのだ。見物人もすごいし、まわりは報道陣がとり囲んで、まるでアカデミー賞の授賞式みたい。緊張するけどいい気分。そーよね、叶姉妹みたいにこの一瞬のためだけに、日々生きてる人もいるんだもんね。
ところが、ところが、誰も私に気づいてくれないのである。報道陣の大きな声が飛ぶ。
「デーブ・スペクターさん、こっちを見てください」
どうもスペクターご夫妻が私の前を歩いているらしく、歩行が止まった。たくさんのシャッター音。私は夫妻の陰となり、背後霊のようにしばらくそこに突っ立っていたわ……。哀しい。
でも私は、今日のメインイベントであるテープカットが待っている。いくら何でもみんな私のことに気づいてくれるかも。今日は趣向を凝らして、テープカットの代わりに恐竜の卵にタッチし、それの色が変わり、音楽が始まるという派手な演出だ。
やや遅れて工藤静香ちゃんがやってきた。黒いイブニングに、焼けたトースト色の肌。豪華なダイヤのネックレスが似合っていてすごくキレイ。デビアスの日本支社長を中心に三人でステージに立った。まわりを招待客や報道陣が囲む。招待客の中にはテツオがいたが、
「あんたってモロ、添えものという感じで可哀想だった」
と後に証言している。
次の日、うちでとっているスポーツ紙は、久々にマスコミの前に姿を現した静香ちゃんの姿を、カラーでトップ扱いにしている。階段を歩く写真で、もちろん私なんか全く無視よ。ワイドショーをちらっと見た。ダイヤをつけて艶然《えんぜん》と微笑みながら恐竜の卵に触れる彼女の横に、おじさんがいて、おばさんが肩だけ映っている。そのおばさんが私よ。たくさんのフラッシュを浴びて(静香ちゃんに向けてのものだけど)、顔がひきつっている。人間、いくら努力してもかなえられないラインがあるのよね。芸能人の真似をしようとした私が身の程知らずでバカだったわ。私は帰りにテツオと中華料理店へ行き、トイレの中でイブニングドレスを着替えた。
何もいいことがなかった、シンデレラの気分だ。
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