ある人は言った。
「ニューヨークは特殊なところなんだ。あそこはアメリカじゃないよ。アメリカっていえば、やっぱりカリフォルニアのロサンゼルスだよ」
というわけで、女四人やってきました、ロスへ。しかしニューヨークからいきなりここへ来ると、やっぱり田舎に見えてしまうんだよな。しかしいろんな人に聞くと、こんなに住みやすいところはないという。気候はいいし食べものもおいしい。適度に緊張しながらもリラックス出来るんだそうだ。
そのせいであろうか、いろんな有名人が住んでいる。松田聖子ちゃんちはすぐそこらしいし、矢沢永吉さんの大邸宅もある。かのミナコ・サイトウもロスにお住まいだ。まずはお買い物ということになり、ロディオ・ドライブへ出かけた。ご存知のとおり、高級ブランド品店がずらり並ぶ一角。そう『プリティ・ウーマン』の中で、ジュリア・ロバーツがいっぱいお買い物するところだ。しかしここ、あまりにも店が揃い過ぎて、なんだかつくりものめいて見える。ニューヨーク郊外にあるアウトレットの街、といったらいちばん近いかしらん。ニューヨークで買い過ぎたこともあり、ここはざっと通る。
そしてやはりロスに来たらということで、ビバリーヒルズの超一流の美容整形医とエステを予約した。美容整形といっても、顔を直すわけじゃない。今、ロスで話題になっているのは、ナントカ菌を注射して皺《しわ》を消すやり方だ。一緒に行った女性編集者は、八〇〇ドル出してさっそくやってもらっていたので、私も頼もうとした。私は素肌には結構自信があるが、目の下の皺だけ何とかしたいの……。
しかしドクターは言った。
「あなたの場合、皺が深過ぎる。ちゃんと手術を受けた方がいいです」
ガーン! 随分はっきり言われてしまった。何でも注射で脂肪をちょっと取ってもらうだけで済むという。
「一時間あれば済むことですよ。ここでは整形手術のうちにも入らない簡単なことです」
私は悩んだ。私はご存知のとおり、少しでもキレイになりたい、モテたい、ということを人生の目標に掲げている女である。けれども私の辞書の中に「整形手術」という四文字はなかったわ。
美しさというのは、あくまでも努力してコツコツやっていくもので、整形というのはちょっとずるい�横入り�という感じがする。それに整形をした人というのは、やがてみんな同じ顔になってくるではないか。いま世間では�ヅラ疑惑�というのが流行っているが、あんまり�整形疑惑�というのはいわないみたいだ。それどころか、あきらかに整形しまくっている顔でも、
「美しければそれでよし」
とする雰囲気がある。いま人気の若手女優(おしゃれにも定評があって、よく女性誌にも出てきます)は、露骨なほど整形をしていて、実物に会えばすぐわかるんだそうだ。みんなそういうことばかり、コソコソ話をしている。私ももちろん噂に加わる方だ。
アメリカで、整形はもう歯を直すようなもんだと聞いたことがある。同じアジアでも、日本と韓国とはまるっきりメンタルな部分が違う。韓国の女のコは、学生でもOLでも、それこそドンドン整形をするのである。もう整形は悪いことでも特殊なことでも何でもない。日本だけがかなりの後進国なのである。
といっても、自分はしたくない、もう他人の噂話に加わることが出来ないものなあ、というのが私の正直なところである。
「やっぱり、よそー」
とホテルに帰ってきた私。料金も高そうだしなあ……。しかしなあ、美女をめざすなら、近い将来やっぱり何かした方がいいのかしらん。美容整形に行ったために、煩悩がすっかり増えてしまった私である。目や鼻をいじるわけじゃないしさ、ちょっと皺を一本取ってもらうぐらいいいんじゃないのかしらん。だけどさ、人間っていうのは、一本が二本になり、ついでに鼻の形を、っていう強欲なもんだしなあ……。いじいじいじ。
そのハリウッド有数のドクターは日本人で、今度東京に進出するんだそうだ。
「来年病院がオープンしたら、まっ先に連絡しますよ」
と名刺をくれた。もちろん誰とは教えてくれなかったが、日本から有名人が顔を直しにこのロスにいっぱいやってくるんだそうだ。
「ほんの三日、時間をとれれば腫《は》れもすっかりひいてしまいますよ」
私は帰ってからテツオに相談した。
「ねえーどう思う。私、やっぱり抵抗あるんだけど」
「皺を一本取るぐらいならいいじゃん」
とテツオ。
「だけどまず人にやらせてから、自分がやった方がいいよ。秘書のハタケヤマなんかにやらせてみろよ」
そこへ一枚のファックスが入った。ナントカ菌を注射した女性編集者からである。腫れがひいたら眉間《みけん》の皺がピンとなったんだそうだ。
うーん、横入りしようと何しようと、医学の力はやはり大きいかも。ビバリーヒルズへ行ってから私の女の人生、変わりそうですよ。