私には�妹分�の女のコが何人かいる。お買い物やコンサートにつき合ってもらい、おいしいものを食べに行く。
お勤めしているコもいるけれども、やはり働いていないコの方が声をかけやすい。A子ちゃんは、中でも�仲よし度ナンバー1�のコかもしれない。私のこのエッセイにもよく登場する。大学を卒業してから、お稽古《けいこ》ごとだけをしていて、一度も働いていない結構な身分だ。おうちから仕送りしてもらい、ずうっと優雅な生活をおくっていたのであるが、彼女にも歳月はしのび寄っていく。何年か前に三十路《みそじ》を迎えてしまった。
歌舞伎を見に行った帰りにマガジンハウスに寄ったところ(この会社は、歌舞伎座の真裏にあります。誰でも入れる雑誌図書館やカフェがあるので、皆さんも上京の折にぜひ)、テツオは本当に無意識に明るく、
「フケたね〜〜〜」
と言ったので、とても傷ついた女のコである。
そのA子ちゃんであるが、このたび結婚することになった。相手はひとまわり以上年が違うおじさんだ。バツイチだけれども、会社を経営していてお金持ちそう。A子ちゃんの話によると、恥ずかしいので披露宴もパーティもせず、籍だけを入れるそうだ。まだ新居を探している最中だけれど、白金《しろかね》の億ションになるという。
その日も、イラストを届けにマガジンハウスまで従《つ》いていってもらった。性懲りもなくテツオはA子ちゃんをいじめる。
その昔、結構かわいいじゃんと言って、私に電話番号を教えろと迫ったことを忘れたのだろうか。いやその記憶があるから、こんなにいびるのかな。
「仕方ないか〜、あんたってジジ専だもんなー」
デブ専というのはよく聞くけど、ジジ専というのもイヤらしい響きだ。
「ひっどお〜い〜、テツオさんたら〜」
A子ちゃんは身をくねらせる。ちなみに彼女はものすごいブリッ子である。いや、もはやブリッ子というよりも、たどたどしく甘えたり、急に手を組んで顎《あご》をのせ、小首をかしげる動作が習い性になっている感じ。こういうのをやはりジジ専っていうんだろうなあ。おじさんに「可愛い、可愛い」って言われ続けた動作や喋《しやべ》り方を、三十歳過ぎてもしてしまうんだわ。
「私はジジ専なんかじゃありませえ〜ん。どうしてそんなこと言うんですか〜〜〜」
「じゃ、年下の男とつき合ったことあるのかよオ〜〜〜」
急におじさんっぽい口調になるテツオである。
「ありますよ〜だ」
甘ったれ口調で答えるA子ちゃん。
「幾つ下か言ってみろよ」
「二つ下でした」
「何年つき合ったんだよ。何年じゃなくて、どうせ何ヶ月なんだろ。そういうのはつき合ったじゃなくて、単に�やった�って言うんだぜ」
「ひっどい」
かなり本気で怒るA子ちゃん。やっぱり嫁入り前の女のコに、こういうことを言っちゃいけないと思うけどな。しかしテツオはしつこい。
「ジジ専の女っていうのは、あんたみたいに語尾を伸ばすんだよなー。まいっちゃうぜ」
この指摘は正しい。可愛らしく喋ろうと思うあまり、つい語尾が伸びちゃうんですね。それからA子ちゃんには悪いが、おじさん好みの女のコというのは、ファッションにもややずれが生じてくるみたいだ。あんまり流行を追ったりしない。どこか野暮ったくするのが特徴だ。白い襟のワンピースでパッド入りといった、今どきどこで売っているんだろうと思うようなものを着ていたりする。ミニマリズムのパンツスーツなんか絶対に着ない。
が、ジジ専の女のコだって、次第に年をとっていく。A子ちゃんのようにうまく結婚出来ればよいけれど、トウが立っていくまま、おじさんにもてあそばれる女の人だっている。
私はこのあいだ、私の友人を見てひっくり返りそうになった。彼女も有名なジジ専なのだが、ピンク地にボアの襟がついたスーツを着ている。四十半ばの女性が、ですよ。思うに彼女たちというのは、いちばんちやほやされていた時代で、化粧やファッションが止まってしまうみたいだ。
ちなみに私は、高いところをおごってもらう時はジジ専でいいが、それ以外は同世代の男の人とつき合いたい。
私は若い男がいいという女の気持ちが、よくわからないタイプの女だ。そりゃあ、どうしてもっていうのなら考えないこともないけれど、めんどうくさい、という気持ちがまず先に立つ。若い男のコはこわいもんなしだから、こっちに向かって突進してくる(と思う)、一度そういうことをしてしまうと、もう世間に向かっても隠さない(と思う)。彼に守るべきものが何もないからだ。こういうのに向かうのは、本当にめんどくさそう。
じゃ、うんとおじさんでいいかというと、おじさんは見た目もよくない。どんなに頑張っても小汚く、ハゲてきたりお腹が出てくる。私はヴィジュアルがよくないと燃えない性質なので、おじさんとそういうことにはならないと思う。やっぱりジジ専の女のコの気持ちがよくわからない……と言ったらA子ちゃんは「ハヤシさんまで」と泣きそうになった。