皆さんはお正月に着物、着ましたか?
たぶんあまりいないかも。今どき、若い女のコが着るといったら、成人式か、友だちの結婚式ぐらいかしらん。成人式に着物つくってもらったコが、ボーイフレンドに見せびらかしたいために、お正月に着るっていう図式かな。
このところ、ずうっと洋服ばかりの私であるが、五、六年前までは着物に、かなりのめり込んでいた。どのくらいのめり込んでいたかというと、当時の稼ぎのほとんどを着物につぎこんでいたぐらいである。
当時、私のお金関係をやってくれていた税理士さんから、
「こんなお金の遣い方をする人に、何をやっても無駄だと思うから、今後は仕事したくない。僕たちが一生懸命やっていることは、いったい何なんですか」
と怒られ、ごめんなさい、ごめんなさい、と泣いたことがある。が、それでも着物はやめられなかった。
私は男にハマり金を遣ったことは一度もないが、着物にはハマった。訪問着をつくればつくったで、
「今度は気軽な紬《つむぎ》を」
ということになり、紬をつくったらつくったで、
「今度は中間の、さらっと着られる付け下げを」
ということで、またつくる。また夏に薄物を着て日傘をさして歩きたい、という願望のもと、上布や紗《しや》の着物も山のようにこさえました。マガジンハウスに入る前、着物雑誌の編集者をしていたテツオは、意外なほど見る目が肥えていて、あれがいい、あれがよくない、とアドバイスしてくれたものである。
が、私が着物好きということは世間にあまりにも知られてしまった。私が言いふらしたためであるが、私はこの状況にすっかり飽きてしまったのである。
今までだったら着物を着ていくと、みながわーっと歓声をあげた。ところがいつのまにか、パーティに行っても、
「あれ、今日は着物じゃないの?」
ということになってしまう。ひねくれた私は、すっかりその気を失くしてしまったのですね。
ところがつい最近のこと、知り合いの結婚披露宴に着物を着ていくことにした。ピンクの洋花という、とてもとても華やかなものだ。披露宴にふさわしい古典柄もあるのだが、こちらの方が映えると判断したのである。
ダイエットというのは、ありがたいものですね……。つくづく思う私。着物を遠ざけた原因のひとつは、デブの私が着るとめっきりおばさんっぽく見えることがあったのであるが、今の私はすっきりとモダンな感じよ。デブの時よりも十倍着物が似合ってきたような気がするの。本当に女は痩せなきゃ駄目よね。
そしてさっそうと結婚披露宴に出かけた私。名門のお嬢さまの結婚式なので、着物姿がとても多い。それも私の大っ嫌いなニューキモノがほとんどいなかったのが、さすがという感じだ。同級生のお嬢さん方は、振袖姿《ふりそですがた》がとても素敵で、大きな花束を見ているようであった。
これはマスコミの影響だと思うのだが、この頃着物というと、どうしてみんなあんなに汚らしい色のものを着るんだろうか。黄土色やえんじ、といったものは洋服の時に映えるんであって、着物になるとくすんでしまう。足まであり、袖をたっぷりとっている着物は布の分量がまるで違う。えーっと思うようなローズピンクや橙色《だいだいいろ》、水色といったものが本当に綺麗《きれい》です。こういうものを着て、帯を高めにきちんと締めた女のコというのは、お嬢さまっぽく上品に見える。これは着物を着るいちばんの効果ではなかろうか。
着物なんていうのは、めったに着るもんじゃない。お金も時間もかかる。だったら効果的に見せなくては損ではないだろうか。何もわざわざ、昔のお女郎さんみたいなニューキモノを着なくてもいいと思うんだけどなあ。
さてその夜、私の着物姿はとても好評であった。みんなが、
「わー、キレイ」
「よく似合うわ」
と誉めてくれた。私が洋服でこれだけ誉められることがあるだろうか。未《いま》だかつてなかったし、これからもないであろう。
このあいだもお話ししたと思うのであるが、私は狙う男性がいると、一回は着物で登場する。私の着物姿にむらむらして欲しいと思うのであるが、官能小説に出てくるようなことは一度も起こったことがない。
もしも、もしもであるが、万が一、脱いだりする事態が起こった場合、対処出来ないと考えているのではないだろうか。が、心配は無用だ。そういう場合ははっきり言って欲しい。着つけ教室に通った私である。そうなったら何とかします、ホント。
そもそも着物を好きになったのも、男の人がきっかけかもしれない。彼を振り返らせたい、驚いてもらいたい、という一念が、私に珍しいアイテム、着物を選ばせたんだと思うわ。
そして時代はめぐり、また誰かのために着物を着ようとしている私。ヒトヅマの着物姿なんていいわよね、色っぽいよね。そお、着物を着るのは、自分の物語をつくり、企画演出することでもあるのよね、ホッ(ため息)。