生キムタクに接近
今日はいよいよ「SMAP×SMAP」の収録日である。
私は賞品のシャンパン二本を持ち、小田急の急行に乗った。「SMAP×SMAP」出演が決まって以来、
「ハヤシさんは、キムタクにキスをするつもりなんでしょう。図々しいわね」
といろんな人に言われたが、私はそんなことをしません。考えただけでもハズカシイ。そんなわけで賞品はシャンパンにした。
「そりゃそうだよ。君にキスされるのと、缶ビールとどっちがいいかって言われれば、誰だって缶ビールの方を選ぶもんな。ましてやシャンパンなら大喜びだよ」
夫は憎らしいことを言う。
しかしやさしいのはテツオで、心配だからついてきてくれるというのだ。向こうのスタジオで待ち合わせをした。
メイクを済ませ、いよいよ本番だ。スタジオの片隅でテツオと待っていたら、シェフの格好をしたキムタクが入ってきた。本物のキムタクは、思っていたよりもずっと背が高い。あの生キムタクが、私の一・五メートル先にいるのだ。が、彼は私に気づかず、スタッフの人と喋《しやべ》っている。
やっと隙を見て接近する。
「コンニチハ、ハヤシです。今日はよろしく」
「あ、どうも」
ここで驚くべきことが起こった。キムタクはテツオの姿を見て、親し気に声をかけたのである。
「どうしてテツオ(と呼び捨て)が、ここにいんだよオ」
「同伴だよ」
と、これまたテツオも馴《な》れ馴れしく答える。
「うちの店は、そんなことしてないぜ」
とキムタクが冗談を言った。なかなかセンスがいいワと、胸がキューンとなる。
スタジオの中はとても広い。あの二階もとても大きなもので、本当にレストランが出来るぐらいだ。
下を見ると、キムタク、カトリ君、ゴロー君、クサナギ君たちが料理をしているではないか。それを見下ろしている私。なんかすっごく贅沢《ぜいたく》な気分ね。
キムタクは私のために、トンカツを揚げていてくれた。手つきがすごくいい。ゴロー君は豚肉をスライスしている。ここがあの「SMAP×SMAP」のキッチンなのね。
そしてスタッフの人が言った。
「ハヤシさん、『SMAP×SMAP』のメンバーは、試食っていうことでたくさん食べます。これで夕飯を済ませますので、ハヤシさんもご一緒に召し上がってください」
あーら、そうなの。テレビの中ではちょっと料理に箸《はし》をつけるだけだと思っていたが、本気で食べるのね。
やがて私の横にナカイ君、その隣にキムタク、カトリ君と座り、反対の隣にはゴロー君、クサナギ君と座った。スマップに囲まれてご飯を食べるのは、そお、私よ、私なのよ。
が、これといって話題もなく、私は黙々と食べる。彼らも食べる。すごいスピードでおいしそうに食べる。
「お弁当は食べないの」
とナカイ君に尋ねたら、
「弁当も食べるけど、こっちも必ず食べますよ」
ということであった。私は彼らのつくってくれた料理を、ちゃんと残さずたいらげました。
モニターを見ていたテツオによると、
「すっごい形相で、すっごい食欲だったんでこわかった」
ということであった。
さて、どんな料理だったか、どっちに軍配が上がったかは放送日前なので言えません。八月六日らしいから、ちゃんと見てね。
さて収録が終わって、多くの人に聞かれた。
「みんなとどうだった、仲よくなれた?」
ひと言でいうと、年下の男のコたちにさんざんおちょくられた、という感じかしら。
「カトリ君って、すごく大きいのね。胸板も厚いし」
と言ったところ、触ってくださいと胸を張った。
「ついでにキムタクもどうぞ」
とナカイ君。私は(仕方なく)触りました。
「あんた、さんざん触りまくってたね」
とテツオに嫌味を言われたけど、私、そんなつもりはまるでない。ただ言われたとおりにしなきゃいけないと思ってただけなのに。ひどいわ、誤解よ。
が、もうひとつ盛り上がりにかけたといおうか、噛《か》み合わなかったのは、彼らが私のことをまるっきり知らなかったということではなかろうか。そりゃ、そうよね。小説家のオバさんなんか、若いスターたちが知っているわけないわよね。
でもいいの、シャンパンと共に、私はマリコ人形のストラップを渡した。どうかこれで、彼らが私のことを憶《おぼ》えてくれますように。どこかで会ったら、ニコッと笑ってくれますように。
帰りはタクシーでテツオと帰った。疲れたけど、とにかくお腹がいっぱい。スターを見て、心は満足、お料理でお腹も満足。「SMAP×SMAP」って両方充たしてくれるものだったのね。