仲良しのサイモンさんが私に言った。
「美人と離婚した男って、次は必ずブスと再婚するのよねぇ。ほら、歌手の○○とか、俳優の○○とかさ」
「でもイシバシなんかは違うんじゃないの。キレイな奥さんの後はホナミだよ、天下の美女だよ」
「でもさ、今度再婚した○○なんか、やっぱり奥さん、ちっとも美人じゃないよ。確率からしたら、多いわよ」
サイモンさんによると、この定義は同棲《どうせい》においても使えるようだ。そういえば、女優さんとの同棲に破れた後、ブスということはないけれど、スタイリストやヘアメイクといった、地味な職業の人と結婚する俳優さんは何人もいる。
やっぱり美人というのは、一緒に暮らすと疲れるんだろうか。これはある女優さんの話なのであるが、まわりの人によるとぞっとするくらい性格が悪いんだそうだ。わがままなんてもんじゃない。何かあると、ヒステリックに自分の主張を通す。家事なんかまるっきりしない。気を遣うとか、気配りをする、ということがまるっきり出来ない女の人なんだと。
でも女の目から見ても、本当に綺麗《きれい》だ。肌は透きとおるようだし、大きな目には思わず吸い込まれてしまいそう。この人、ふつうの職業の男性と結婚しているけれど、大丈夫なのかなあ、なんていうのは余計なお世話であろう。あれだけの美人を家の中に置いて、ベッドも共に出来る。その幸福を考えれば、多少性格が悪くても、どれほどのことがあろう。ちやほや甘やかすということに徹して、耐えられなくなったら、遅めに家に帰れば済むことだ。
それはともかく、最近私のまわりで、離婚する男性が続出している。ついこのあいだも、仲のいい人たちで食事をしている最中、Aさんが、みんなに発表というかたちでこう言った。
「先月をもって独身になりました」
しばらく沈黙があったが、それはそれ、都会に住んでいる自由業の集まりである。
「あーら、いい話じゃない」
と、女友だちが口火を切った。
「これで私にもチャンスが来た、っていうわけよね」
彼女も十年以上前に離婚しているのである。誰かが言いだして、テーブルの人たちを調べてみたところ、テーブルを囲んでいる十人のうち、離婚歴のあるひとり者が四人、再婚しているのが二人、まるっきりの独身が二人であった。
「十人中六人って、やっぱりかなりの確率だよね」
ということになったのであるが、私もやっぱりちょっとウキウキした夜であった。これで私のまわりの独身がひとり増えたことになる。それが、なかなかよい男性なのでなおさら嬉《うれ》しい。
「これからもっと仲良くしようね。いろいろ誘うからね」
と私は隣に座っていたその彼にささやいた。
「これからパーティの時なんかは、○○(彼の名)夫人っていうことでつき添ってあげる」
と言ったら、彼は苦笑していた。そりゃそうである。彼の別れた奥さんを私も知っているけれど、とても品のいい美人であった。あの人の代わりというのは、ちょっと図々しいかも。
しかし、何というんでしょうか、離婚したばかりの男の人というのは、ちょっと淋し気に弱々しくなっていて、とてもいい感じである。テーブルの誰かが聞いた。
「それで誰かいて、すぐに再婚するの? それともずうっと独身を楽しむの? 言ってみれば、石坂浩二型か、小泉総理型かっていうことだよ」
「もちろん僕は小泉総理型だよ」
と彼が答えたので、私はますます嬉しくなった。そしてこの人と、週末を利用して、海外に遊びに行く計画を立てたのである(もちろんグループ旅行ではあるが)。なんていおうか、もし彼に奥さんがいたならば、こんなにフットワークを軽くすることはなかったかもね。
そう、ついこのあいだのことだった。離婚していてすごくカッコいいナ、と思う男の人と飲んでいた。私は半分冗談で、いろいろコナをかけました。するとその男の人は、こう言った。
「だけどハヤシさん、あなた結婚してるじゃないか」
一種の逃げ方策であるが、私は怯《ひる》まずこう言った。
「あなたがちゃんと約束してくれるんだったら、すぐに別れるわよ。でも、約束が何もないもん。だって新しいコートを買う前に、古いコートを捨てる人はいないでしょ。紙袋から取り出して、新しいコートのタッグをとった後、確実に自分のものになった、ってわかってから、人ははじめて前のコートを捨てるものよ」
一緒にいた女友だちが言った。
「二着のコートは、しばらくクローゼットの中で同居しているものじゃないかしら」
ここまで言っても、その男の人はただ笑っているだけでした。