一八 ザシキワラシまた女の児なることあり。同じ山口なる旧家にて山口孫左衛門といふ家には、童女の神二人いませりといふことを久しく言ひ伝へたりしが、ある年同じ村の何某といふ男、町より帰るとて留《とめ》場《ば》の橋のほとりにて見馴れざる二人のよき娘に逢へり。物思はしき様子にてこちらへ来る。お前たちはどこから来たと問へば、おら山口の孫左衛門が処から来たと答ふ。これからどこへ行くのかと聞けば、それの村の何某が家にと答ふ。その何某はやや離れたる村にて、今も立派に暮らせる豪農なり。さては孫左衛門が世も末だなと思ひしが、それより久しからずして、この家の主従二十幾人、茸の毒にあたりて一日のうちに死に絶え、七歳の女の子一人を残せしが、その女もまた年老いて子なく、近き頃病みて失せたり。