一〇一 旅人豊《とよ》間《ま》根《ね》村を過ぎ、夜更け疲れたれば、知音の者の家に燈火の見ゆるを幸いに、入りて休息せんとせしに、よき時に来合はせたり、今夕死人あり、留守の者なくていかにせんかと思ひし所なり、しばらくの間頼むといひて主人は人をよびに行きたり。迷惑千万なる話なれどぜひもなく、囲炉裡の側にて煙草を吸ひてありしに、死人は老女にて奥の方に寝させたるが、ふと見れば床の上にむくむくと起き直る。胆つぶれたれど心を鎮め静かにあたりを見廻すに、流し元の水口の穴より狐のごとき物あり、面《つら》をさし入れてしきりに死人の方を見つめてゐたり。さてこそと身を潜めひそかに家の外に出で、背戸の方に廻りて見れば、まさしく狐にて首を流し元の穴に入れ後足を爪《つま》立《だ》ててゐたり。ありあはせたる棒をもてこれを打ち殺したり。