一八二 上郷村佐比内河原の鈴木某という男が、片沢という所へ朝草刈りに行った。刈り終わって家に帰って、馬に草をやろうとして見ると、刈草の中に胴ばかりの蛇がうごめいていた。次の朝もまた片沢へ行くと、馬沓ほどもある胴のない蛇の頭が眼を皿のようにして睨んでいた。これはきっと昨夜の蛇と同じ蛇だろうと思い、大いに畏れて、以後この沢にはけっしてはいらぬし、祠も建てて祀るから、どうか祟らないでけろと言って帰った。それで祟りもなかったが、何代か後の喜代人という者がこの言い伝えをばかにして片沢へ草刈りにはいったところが、頭ばかりの蛇が草の間に藁《わら》打《うち》槌《づち》のようになっていた。それを見て帰ると、病みついて死んだと伝えられており、今もこの片沢には草刈りにはいらない。