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遠野物語拾遺212

时间: 2019-08-26    进入日语论坛
核心提示:二一二 栗橋村の嘉助とかいう人が、本当に出逢った事だという。この人が青年の頃、兄と二人して山畠に荒《あら》畦《く》を畳み
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 二一二 栗橋村の嘉助とかいう人が、本当に出逢った事だという。この人が青年の頃、兄と二人して山畠に荒《あら》畦《く》を畳みに行くと、焼畑の中に一本の大木があって、その幹が朽ち入り、上皮が焼けたために大穴になっていた。ふと見るとこの大木から少し離れた処に、大熊が両手で栗穂の類を左右に引っ掻《かな》ぐっている。兄弟は思わず知らず後《あと》退《ずさ》りをしてようやく物陰に隠れたが、だんだん心が落ちついてくると、そっと熊の様子を窺い始めた。熊はしばらくの間栗穂などをむしって食っていたが、何と思ったのかその朽ち木の穴の中にはいって行った。どうしたのであろうと思いながら、なおも二人は見張っていたがいっこうに熊は出て来ない。それがあまり長いので、二人は、よしきた、あの熊を捕って高く売ろう。なんとひどく大きな物ではなかったか、よい金儲けだと言い合って、おもむろに朽ち木の傍に歩み寄り穴の口に矢《や》来《らい》を掻《か》き切って中から出られぬようにした。そうして兄を張り番に残し、俺は一走り家に行って鎗《やり》、鉄砲を持って来るからと、嘉助は走り出した。その後から兄は、誰にもこのことを聞かせるな、俺たち兄弟して、しこたま金儲けすべすと言い聞かせ、自分は穴を見つめたまま、眼《ま》弾《はじき》もしないで張り番をしていた。そのうちに喜助は家から鉄砲、鎗などを持って還ったので、二人は例の大木の処に引き返し、いよいよ朽穴にさぐりを入れ、鉄砲、鎗などで突き立てようとした刹那である。大きな地震《ない》が揺れて、みりみりとこの大木を根こそぎに倒した。兄弟は驚いて樹の側を飛び退いていたが、やがて地震はおさまったので、この間に熊が逃げ出してはならぬと、穴の口に鎗と鉄砲をさし向け、待ち構えていた。しかしいつまでたっても熊は出て来ない。元気な弟はとうとうじれったくなり、獲物を先に構えて穴の中にはいってみた。が、どうしたものか穴の中には熊の姿など見えなかった。いくら探しても、さらに影もないので、しかたなく這い出して来て、兄貴お前は俺が家へ行って来る間に熊が出たのを見失ったのだなとなじれば、兄は、何を言う、俺は瞬《まばた》きもしないで見張っていたのだ。そんなことがあるものかと、互いに言い争いを始めた。二人はしばらく諍《いさか》っていたが、ふと向う山の岩の上を見ると、先刻の熊がそこに長くなっている。あや、あんな処にいた、早く早くと罵り騒いだ。しかし熊はいつまでも身動き一つしない。二人がそろそろと近寄ってみたら実はその熊は死んでいたのであった。不意の地震で木が倒れた刹那に、朽ち木の奥深く入り込んでいた熊が向う山へ弾《はじ》き飛ばされて、石に撲《う》ち当てられて死んだのであろうという。ちょっとありそうもない話だが、これは決して偽りではない、確かな実話だといっていた。
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