二三三 明治もずっと後になってからのことであったが、小国の方から土淵村へ、若い男女が物に追われるようにしてやって来た。この二人の跡を追って来た刀を持った男に、林崎の田圃の中で追いつかれて、男も女も少しの手向かいもせずに、斬り殺されてしまった。どういう事情があったのであろうか、二人斬った男はほろほろと涙をこぼしながらこの二人の屍体を路傍に埋め、女の髪に差していた《か》笄《んざし》を墓のしるしに立ててから、もと来た方へ戻って行ったという。それを見ていた老婆たちが、今でもこの話をしては涙ぐむのである。