二六二 今はあまり行なわれぬようになったことであるが、以前は疱《ほう》瘡《そう》に罹《かか》った者があると、まず神棚を飾って七五三《しめ》縄《なわ》を張り、膳を供えて祭った。病人には赤い帽子を冠らせ、また赤い足袋《たび》を穿《は》かせ、寝道具も赤い布の物にする。こうして三週間で全治すると、酒湯という祝いをした。この日には親類縁者が集まって、神前に赤飯を供え、赤い紙の幣束を立てる。また藁人形に草鞋《わらじ》と赤飯の握り飯と孔《あな》銭《せん》とを添えて持たせ、これを道ちがいに送り出した。この時に使う孔銭は、旅銭ともいった。そうしてまだ疱瘡を病まぬ者には、なるべく病気の軽かった人の送り神が歓迎せられた。