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月蝕姫のキス19

时间: 2019-09-15    进入日语论坛
核心提示:CHAPTER 18それは確かにパズルだった。それも超高難度のだ。黄金のからくり太陽系儀《オーラリー》は、無数の部品から成り立ち、
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 CHAPTER 18

それは確かにパズルだった。それも超高難度のだ。
黄金のからくり——太陽系儀《オーラリー》は、無数の部品から成り立ち、しかもそれらは一瞬《いっしゅん》の遅滞《ちたい》もなく、さまざまなリズムを刻みつつ、渾然一体《こんぜんいったい》となった動きをなしている。
美羽子《みわこ》の話によれば、「特別な光」——おそらくはあの不気味な赤い月を指すのだろう——を浴び、天とシンクロし始めたが最後、もうつながりを断つことはできなくなるという。つまり、今さらあの天窓をふさいで月光を遮断《しゃだん》しても無駄《むだ》だということだ。だが、もし天空と同時進行で再現される現象——これはもう皆既月蝕《かいきげっしょく》に決まっているが、そいつを阻止《そし》してしまえばいいのではないだろうか。それだったら、できないことはあるまい。
とはいえ、壊《こわ》そうにもネジ一本外すどころか、ゆるめることさえできず、うっかりと手を差し入れたりしようものなら、たちまち歯車だの名も知れない物騒《ぶっそう》な形をした部品だのにかみ砕《くだ》かれて、大けがを負いそうだった。実際、指を飛ばされかけたり、腕《うで》を巻き込まれそうになったことも一度や二度ではなかった。
まず一番外側のリング——星形をびっしりちりばめてあったから、たぶん太陽系の外に広がっていると考えられた恒星界《こうせいかい》を表わすのだろう——をくぐって、次の惑星軌道《わくせいきどう》との間に入り込んだのだが、われながらばかなことをしている——そう思ったとたん、何かがぼくめがけて素っ飛んできた。
中心の軸《じく》につながれた時計で言えば秒針のようなもので、その先にはこれも天体を表わすのか鉄球のようなものがついていて、あやうくよけなければ額を砕かれているところだった。同様なものは何本もめぐっていて、不意打ちのように襲《おそ》ってくるのだった。
幸いなのは、リングすなわち惑星軌道の数が少ないことで、このことからしても(機械そのものは真新しく輝いていたものの)、やはり古代に創られたものらしかった。確か天王星から先は近代以降の発見で、古くから知られていた惑星といえば、水星・金星・地球・火星に木星・土星の六つだけ。にもかかわらず、惑星のためのリングがいくら数えても七つあるのはどうしたことか。
この太陽系儀が生み出されたときには、すでに天王星の存在が知られていたのか。それとも、これが作られた国ではわれわれの知らない星を一つ仲間として加えていたのだろうか?
だが、そんなことを不審《ふしん》がっている暇《ひま》にも、一瞬の油断を突《つ》いてからくりの部品たちが攻撃《こうげき》してくる。ぼくは、おじいさんの懐中《かいちゅう》時計に入り込《こ》んでしまった小さな虫けらも同然だった。精密かつ着実に仕事をやってのける、拷問《ごうもん》および処刑《しょけい》のための機械にわが身をゆだねてしまったようなものだった。
悪戦苦闘《あくせんくとう》の末、どうにか内側から三番目、地球と思われる軌道にたどり着いた。言うまでもなく月蝕は、太陽と月の間に地球がはまりこむことによって起きる。だが……。
(月がない[#「月がない」に傍点]!)
ぼくはあわてた。地球を示すらしい円形の部分に、当然付属しているべき月がない。いくら探しても、ほかの星にもそれらしい衛星は付属していない。月がなくて、どうやって月蝕を再現し、現在進行中の天体ショーとシンクロしようというのか。
そういぶかるうちにも、からくりはますます歯車の回転を、さまざまな部品が刻むリズムをめまぐるしくさせ、そればかりかギラギラと輝《かがや》きを増して、リングなどは触《さわ》っていられないほど熱くなってきた。
しまった、いよいよか——と焦《あせ》りと後悔《こうかい》と敗北感、それに不安をごちゃまぜにした感情にかられて立ちつくしたときだった。ふいに背中から、いっそう強烈《きょうれつ》な光と熱を浴びせられた。驚《おどろ》いて振《ふ》り返りかけたが、とても直視できないまばゆい光に顔をそむけずにはいられなかった。
そこには内側から数えて四番目の惑星、現代の知識に従えば火星があるはずの場所だった。これはいったいどうしたことだろう。このからくりをこしらえた人々は、夜空に赤く輝くあの星を、灼熱《しゃくねつ》の世界とでも考えていたのだろうか。
いや、違《ちが》う——もう少しで服地は焦《こ》げ、露出《ろしゅつ》した肌《はだ》には火ぶくれができそうな苦痛に見舞《みま》われた。あわてて身を伏《ふ》せ、拷問から逃《のが》れようとしたとき、ぼくの中でひらめいた一本のマッチの炎があった。
(何でこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。今、背にしているのは惑星の一つなどじゃなく、れっきとした太陽[#「太陽」に傍点]だということに!)
そう……この太陽系儀は、天動説[#「天動説」に傍点]に基づいて作られていたのだ。このからくりがいつの時代に作られたものかは知らないが、その根本が遠い昔にさかのぼるとすれば、現在信じられている太陽中心の地動説に従っている方がむしろおかしい。
天動説——ということは当然、中心にあるのは太陽ではなく地球ということになる。
では、月はどこだ? 決まってる、地球の一番近くを回っているのがそれだ。次いで水星、金星、太陽、火星、木星、土星の順となる。
どうせなら擬人化《ぎじんか》したお日さまとお月さまの顔でも描《か》いておいてくれればいいものを、奇妙《きみょう》な記号と文字のみだからわかりようがなかった。だが、落ち着いて考えていれば、すぐにわかったはずだ。
先ほど、星の軌道を表わすそれぞれのリングにはコブのような部分があって、それ自体も回転していると言った。てっきり惑星の自転を示したものかと思ったが、違っていた。これは天動説ならではの周天円を表現したものだったのだ。
惑星もしくは遊星という呼び名通り、これらの星々は天球上を一定方向に進んだと思ったら急に逆戻《ぎゃくもど》りしたりして、天動説が説くシンプルな宇宙像ではどうしても説明がつかないのが、天文学者たちの悩《なや》みの種だった。そこでひねり出されたのが周天円という概念《がいねん》で、各惑星はある点を中心に小さな円を描きながら大きな円、すなわち公転軌道をめぐっているという——ああ、そんなことはこの際どうでもいい。要は太陽と月に関しては、周天円が設定されてないのだから、それを表わす仕掛《しかけ》けがなく、単に球体のみのものを探せばよかったのだ。
見れば、今まさに宇宙の中心にある�地球�をはさんで、灼熱の�太陽�と�月�が一直線に並ぼうとしている。�太陽�はいよいよまぶしい白光を放ち、�月�は血の赤に変じている。そして中心にある�地球�までもが、あの放電球《プラズマボール》——手を触《ふ》れるとガラス球の中で妖《あや》しく光が波打つ玩具《がんぐ》みたいに、異形《いぎょう》というほかない変貌《へんぼう》をとげかけていた。
何とか止めなければ、何とか……そう必死に考えて、ある考えに突き当たった。
なぜ止めなければならないんだ? 確かに、止めなければおまえ自身の命も危ない。だが、あえて残ったのは何のためだ? 黒河内《くろこうち》刑事のためか、この屋敷《やしき》の近くに住む見知らぬ人たちに災禍《さいか》が及《およ》ぶことを恐《おそ》れてか?
それもないとはいえないが、決してそれが主ではなかった。ぼくは、美羽子のもくろみを阻止したかった。何としても邪魔《じゃま》をしてやりたかった。意地でもない、復讐《ふくしゅう》でもない。彼女にこれ以上、罪悪を重ねさせたくなかったのだ。
だって、ぼくは彼女のことを……。
(違う!)
そんなんじゃ、そんなんじゃないんだ! 激しく自分で自分を否定したときだった。�地球�とその他二つの天体を表わす球体の間で、虹《にじ》のように光芒《こうぼう》が飛び交い始めたかと思うと、やがて一本の光の柱となって垂直に立ち上がった。ただの光などではなく、ある種の〈力〉を感じさせるそれは、天窓を跡形《あとかた》もなく打ち砕き、さらなる高みへと駆《か》け上がってゆく。
サラサラと頭上から降りかかるガラスの破片《はへん》を、腕であやうくよけながら、あらためて美羽子の警告がただのおどしや誇張《こちょう》ではないことを思い知った。しかも、光の柱は内側に螺旋《らせん》のようなねじれや光点の乱舞《らんぶ》、のたうつ火焔《かえん》の舌をはらんでグングンと太く、輝きと熱を増していった。そして、その果てに——。
「うわああぁっ」
ぼくは機械にはさまれて不自由な身を必死によじり、恐怖《きょうふ》の叫《さけ》びをあげた。光の柱がひときわまばゆい光に包まれたかと思うと、まるで逆向きの雷撃《らいげき》さながら、ぼくの体のほんの数ミリそばをかすめて打ち上げられたからだった。
地響《じひび》き、土煙《つちけむり》、この建物の屋台骨が揺《ゆ》らぐ不吉な響《ひび》き。だが、それらがぼくをおびやかしたときには、光の柱はいつのまにか元の穏《おだ》やかな(あくまで比較の問題だが)ようすに戻っていた。
(い、今のは……?)
それが何かはわからなくとも、美羽子がその実行に全てをささげてきた、まがまがしくも血なまぐさい使命とつながっていることだけは間違いなかった。
では、これで何もかも終わりか。ぼくのしたことは、しょせん何の役にもたたなかったのか。幸か不幸か、そうではなかった。というのも、光の柱は再び勢いを増し、正体不明の〈力〉を込めて天に打ち上がったからだった。
そしてまた、いったん平穏《へいおん》になったかと思えば、またすぐに——といった具合で、どうやら月蝕が続き、その魔力が持続する間は、幾度《いくど》でも作動し続けるらしい。ということは、美羽子がその〈力〉を及ぼし、滅《ほろ》ぼしたい標的は一つや二つではなく……?
となれば、こちらもやるまでだ。といって、手には何の得物もないのに、いったいどうしようというのか?
その答えとは——�地球[#「地球」に傍点]�をわしづかみにすること[#「をわしづかみにすること」に傍点]だった。なるほど、太陽と月のはざまにあって光をさえぎる地球がなくなってしまえば、月蝕は起こりっこない。
だが、それがいかに本末転倒《ほんまつてんとう》な発想であるかに、その瞬間のぼくは気づいていなかった。だって地球がなくなってしまえば、どんな天体現象であれ、いったい誰がそれを見るというのか。
だが、どんなに本末転倒ではあれ、全てをめちゃくちゃにしてしまうという点では効果的な選択《せんたく》といえるかもしれなかった。ともあれ、これがぼくの出したパズルの答えというわけだった。
とはいえ、いかにも恐ろしげな光を放ち、妖しく彩られた�地球�をつかみ取るには、相当な躊躇《ちゅうちょ》なしではいられなかった。だが、そうするうちにも、またまた光の柱は不吉な徴候《ちょうこう》を見せ始めていた。
もうしかたがなかった。ぼくは大火傷を負うのも衝撃《しょうげき》を受けるのも、それどころか自分の身も心も元素の霧《きり》となって飛散することさえ覚悟《かくご》して、手をのばした……。
その刹那《せつな》、ぼくのまわりで世界がめまぐるしくスピンした。きらめく光の波濤《はとう》が次々打ち上げられ、花火のようにはじけた。ぼくもまた天高くジャンプしていて、例の血の色の月が、視野いっぱいに広がって見えたほどだった。
だが、それでも近づき足りなかった。ぼくは何としても月にたどり着きたかった。そこにいるかもしれない行宮《ゆくみや》美羽子とめぐり合って、むりやりにでも地上に引きずりおろしたかった。
その思いが通じたのか、ふいに月がまるでコインのように裏返り、美羽子が一瞬姿をのぞかせたような気がした。
「どうしたんだ、行宮、その格好《かっこう》は?」
ぼくは何だか愉快《ゆかい》でたまらず、叫んだ。光と音の奔流《ほんりゅう》のただ中で身をよじり、ゲラゲラと笑い転げながら、
「何だ、そりゃいったいどこの国の衣装だい? まるで王女様みたいじゃないか。月蝕の姫君《ひめぎみ》——そうだ、月蝕姫とお呼びしよう!」
どうしてだか、その思いつきがすてきなものに思え、ぼくは誇《ほこ》らしく美羽子に呼びかけた。その声が届いたのか、何ともエキゾチックな——アジアのどこかのようでもあり、西洋のお伽話《とぎばなし》本かアラビアン・ナイトの世界から抜け出したようでもあり、と同時にどこにも存在しない国のもののようにも思える装束に身を包んだ月蝕姫《かのじょ》からも、微笑《ほほえ》みかけてきた。
彼女の手がぼくのそれをつかみ、ふうわりと引き寄せる。そして——。
 目覚めたときには、暗闇《くらやみ》の中にいた。
さっきまでと同じ部屋のはずだが、そこを包んでいた光も音も、熱気のようなものもすでになく、一切は冷え冷えとした黒に塗《ぬ》りつぶされていた。
あの黄金のからくり——太陽系儀《オーラリー》は、いったいどうなったのか。暗がりに目を凝《こ》らしても、見えるのは奇妙に歪《ゆが》み、床《ゆか》に斜《なな》めに倒《たお》れ込んだ残骸《ざんがい》のようなもののシルエットに過ぎなかった。
ふと、どこからともなく、ぼんやりとした光が、かすかな騒音《そうおん》が流れ込んできているのに気づいた。見回せば、その出どころはあの打ち破られた天窓だった。
そこから射し入る灯りを頼《たよ》りに、ぼくは吹《ふ》き抜《ぬ》けの周囲にめぐらされた階段を上っていった。
やがて、無残に破られた穴から夜風のただ中に身を乗り出したとき、ぼくが地平線のあたりに見たもの——それは、燃え上がる都市の姿だった。
「————!」
格好の展望台となったそこから、ぼくは凍《こお》りついたようにその光景を凝視《ぎょうし》した。とうに血塗られた蝕のときを終え、いつもと変わらぬ蒼白《そうはく》の輝きを天空から投げかける月。だが、その謎めく微笑の下では、恐るべき災厄《さいやく》が繰《く》り広げられていた。
ぼくらの住む街の一角、水辺に面してびっしりと建ち並ぶ工場地帯《コンビナート》。それが今まさに天を焦がし、地球の縁《ふち》を明るくにじませて爆発炎上《ばくはつえんじょう》を繰り返していた。まさに壮大《そうだい》な滅びのスペクタクルだった。
(まさか、あのからくりから放たれた光の柱、そこに込められた〈力〉のせいで……?)
ことさらに疑問符《ぎもんふ》をつけてはみたものの、ぼくの中にはもはや一片《いっぺん》の疑いもなかった。予想をはるかに上回るカタストロフィの大きさに、頭がしびれるようだった。
燃え上がる壁《かべ》、焼け落ちる柱や梁《はり》、火柱を吐いて崩《くず》れる屋根。まるでトランプの家を突き壊《こわ》してゆくみたいに、一つまた一つと建物が猛火《もうか》と白熱の光にのみこまれてゆく。
その一部始終を、ぼくは間近にあって火の粉《こ》を浴び、熱風をまともに受けるよりも生々しく見つめていた。どうしようもない無力感と罪の意識にさいなまれながら、総身《そうみ》にからみついてるはずの痛みも感じる余裕のないままに。……
つくづく、ぼくはバカだった。バカの国があったら、王様になれるほどに。だって、そうじゃないか——悲しいぐらいちっぽけなマッチ一本の炎《ほのお》で、こんな地獄《じごく》の業火《ごうか》に立ち向かい、封《ふう》じ込めることができると夢想しただなんて。しかも、よりによって、このぼくが!
悪い冗談《じょうだん》、とんだ妄想《もうそう》……だが、そう言って笑い飛ばすには、目の前の地獄絵図は否定しようのない現実だった。
どこかで——ひょっとしたら、ぼくの胸の奥底からだったかもしれないが——誰かの悲鳴らしい声が聞こえたような気がした。
(まさか、ひょっとして——?)
ぼくはハッとわれに返った。まさか、あの紅蓮《ぐれん》の炎の中に行宮美羽子が、彼女が……。
またいくつとなく火柱が、噴煙《ふんえん》が立ち上った。だが、それらにともなうどんな轟音《ごうおん》も地響きも、ぼくの心の叫びをかき消すことはできなかった。
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